2018年2月22日 (木)

ヴァイオレット・エヴァーガーデン第7話

奇跡と、その代償

ヴァイオレットは、劇作家ウェブスターが、苦吟しつつも生み出そうとしている物語に共感し、亡きオリビアが望んだ「湖の奇跡」を実現。ウェブスターの心を救いました。
彼女が、感情に目覚めたゆえの、喩えようもなく美しい奇跡。
しかし、彼女にとって、その代償はあまりにも大きかったのです。

劈頭いきなり、運命劇「赤い悪魔」の台詞が放たれました。
「ああ、私はこの罪を背負って生きるしかない。この先、一生」
この台詞こそは、ヴァイオレットを待ち受ける運命を暗示する、重要な伏線でした。京アニの心憎い演出です。

エリカさまが崇拝する劇作家、オスカー・ウェブスター。華麗な文藻を駆使する人気作家です。
しかし、現実の彼は、愛する妻と娘を失い、酒に溺れて執筆もままならないダメ作家でした。
俺は飲まなきゃ書けないんだ。
ウェブスター氏の言い分、分ります。私だって、飲まなきゃとてもブログ記事なんて(以下略

ここで刮目すべきは、京アニの映像演出。
まず、「低きもの」を徹底的に描写してみせる。酒瓶が転がる荒れ果てた家の描写、ヴァイオレットが繰り返し失敗する卵割り、塊と化した失敗作のカルボナーラ。
これら映像描写によって、視聴者に低回イメージを植えつけ、ある種のストレスを与えておいて。
一転、パラソル片手に湖上を飛翔するヴァイオレットの、美しい映像による奇跡を演出し、物語を一気にカタルシスの高みに導く。ドラマトゥルギーの要諦です。
「より高く跳ぶためには、より低く屈まねばならない」。そんな至言を自家薬篭中のものにしてみせた、あざやかな手際。
まさに、京アニ演出の独壇場ですね。

「ご覧になりましたか。三歩は歩いていたと思います」
ここは笑うところかな?(笑)
そう、湖上を歩くなんて、ニンジャかイエス・キリストでもなければ、とうてい不可能。常人では思いつきもしない、いわば愚行です。
しかし、いっけん愚かともいえる行動が、奇跡以上の奇跡を生む。
ヴァイオレットの行動が、ウェブスターとオリビアとの痛恨事だった「いつか、きっと」を叶えてくれた。
それは同時に、ヴァイオレットが豊かな感情を獲得した証しでもありました。

でも、感情は諸刃の剣。獲得した感情が、今度は彼女を苛み始めます。
戦闘人形だったころ、戦場で奪ってきた数々の命の幻像が脳裡に去来し、彼女を苦しめるのです。
いつかきっと、を実現した美しい奇跡が、いつの間にか諸刃の剣と化して、
「私は誰かの、いつかきっと、を奪ったのではないですか」という苦悩へと流れ込んでいきます。

そして、ヴァイオレットを打ちのめした、決定的な一言。
浮かばれるわね。亡くなったギルベルトも
視聴者も怖れていた一言が、ついに放たれました。
それも、通りすがりのエヴァーガーデン夫人の口から
まさに、リアリズムのお手本のようなシークエンスです。

もっとも決定的な言葉が、もっとも平凡な人から語られる
写実主義文学の開祖であるフローベールの世界的名作「ボヴァリー夫人」に、「悪の華」の詩人ボードレールが寄せた、有名な書評の一節です。
重要人物が重要な台詞を語っても、それは当たり前過ぎて、読者の心に響かない。
現実においてはむしろ、平凡な人物の何気ない言葉が、運命の歯車を変えてしまうことがある。そこに現実感が生まれる。
この手法こそがリアリズムの極意だと、批評の達人でもあるボードレールは云うのです。
(余談ですが、カトレアさんのフルネームって、カトレア・ボードレールなんですね)

衝撃さめやらぬまま、ホッジンズに詰め寄るヴァイオレット。沈痛な面持ちで、真実を重く語り始める彼。
「瓦礫の下に認識票があった。それで、未帰還扱いになって」
「少佐はきっとご無事です」
「ヴァイオレットちゃん…」
「ご無事です!」
郵便社を飛び出し、無我夢中で疾駆するヴァイオレット。
坂道を、息を切らせながら駆け下りて行くこのシーンに、「彼女を待ち受ける運命的な坂道」という象徴を読み取ることも可能ですが、さすがに穿ち過ぎかなw
ともあれ、ここに至って、タイトルの「      」が利いてくるのですね。
少佐の、かくも長き不在と、ヴァイオレットの抉られた心の空白とを倶に表象しており、巧みです。

構成と演出の妙とをつくした、序破急でいえば「破」にあたる、重大なエピソードでした。

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2018年2月17日 (土)

ヴァイオレット・エヴァーガーデン第6話

書を捨てよ、町へ出よう(寺山修司)
青年は荒野をめざす
(五木寛之)

観終わってすぐ、そんなメッセージが脳裡に浮かびました。
前者は、書を通じた知の獲得よりも、積極的に町へ飛び出して「世間」という巨大な書物から学ぼうという行動主義を慫慂したもの。
後者は、大学進学を捨てて世界へ雄飛し、人生を学ぶという冒険を撰んだ青年の物語です。
今回の愛すべきエピソード、ヴァイオレットとリオンとの一期一会の邂逅を表すのにふさわしいメッセージと感じました。

シャヘル天文台写本課のリオンは、美少女と見紛うばかりの長髪の若者です。いや実際、チラ見したときはヴァイオレットちゃんと美少女との絡みのお話かとカン違いしました。
リオン君、挙措は狷介孤高なくせにちょっとかなりマザコン気味なのが、またそそりますなw
旅芸人の母と、文献蒐集家の父。文献蒐集のために大陸へ出奔した父親を追って、母親も当てのない旅に出てしまうという、何とも空想的な設定です。
命を落とすかもしれないとか、文献蒐集ってそれほど危険きわまる冒険だったのか。まるでHUNTER×HUNTERの世界ですね。

映像について。
ロープウェイでしか到達できない山巓の、閉ざされたシャヘル天文台の描写を積み重ね、リオンの告白を経て、一転、光芒を引いて流れる彗星と、空を覆いつくすほど雄大で美しいオーロラの描写へ、一気に視界が開ける。
静から動へ。感動のクライマックスへと誘う視点の動きが巧みでした。

「彗星だ!おれたちはもう、二度とあれに出逢うことはできない。人生でたった一度きりの出逢いなんだ!」

ただひとときの
そんな言葉も脳裡をよぎりました。
触れれば崩れてしまう古書も、200年周期でしか地球を訪れないアリー彗星も、二人の出逢いも、全てが一期一会。
ただひとときの、唯一無二の出逢いを通じて、リオンは、母親が父を連れて帰ってくるのを待ち続けるという消極的な生を脱却し、大陸へ飛び出して文献探しの冒険の旅をするという積極的な生を選択することができました。
彼は、町へ出て荒野をめざすのですね。

どこかの星空の下で。珠玉のエピソードでした。

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2018年2月11日 (日)

ヴァイオレット・エヴァーガーデン第5話

プリンセスの恋

可憐愛すべきお伽噺、メルヘンのような恋の顛末に、うっとりです。
シャルロッテの「愛してる」は、ダミアン王子に届きました!
届かなかったアイリスの「愛してる」に対比させ、しっかり届いた姫さまの想いを丁寧に描破したエピソード。まさに、止揚の物語です。
もちろん、恋が成就したのは、ヴァイオレットの美麗な文に満足せず、姫さまが自分の言葉で手紙を書き続けたのが功を奏した結果。「わが胸の底のここには」じゃないけれど、赤心から迸り出た言葉こそが、人の心を掴むのですね。
テーマに篤実に沿ったエピソードです。制作側の意図は、よく伝わってきます。

さて。
5話まで感想を書き続けてきて、何だか自分がヴァイオレット教の敬虔な信者のように思えてきたのですが、まあ実際そうなのですが(笑)、盲目的に信奉しているわけじゃないという証左として、あえて異を立ててみます。一種の思考実験です。

映像詩を描かせれば京アニはほぼ無敵なのですが、リアルな物語を追求しようとすると、微妙に齟齬が発生することがあります。
例えば「たまこまーけっと」のあの奇妙な鳥。商店街の回生という現実的な物語と、鳥をめぐるお伽噺めいた要素とが上手く溶け合わず、隔靴掻痒感がありました。
今回のエピソードの中心を為す「公開恋文」という設定は、空想的に見えて、王侯貴族の恋物語の伝統をきちんと押えています。
男女の手紙のやりとり自体が、恋の神髄。「源氏物語」など平安時代の物語を読むと、手紙のやりとりが実に頻回に行われており、当時の貴顕貴族の雅な恋のたくみの実相がよく伝わってきます。
ただそれでも、ふつうの男女でなく、やんごとなき王族の恋をメインに据えたために、何処かお伽噺っぽさが纏綿してしまうのです。
シャルロッテの幸福過ぎる恋の物語に対比させられたアイリスちゃんが可哀想、とまで思ってしまいました。
もし仮に、シャルロッテのお相手がエイモンのようないけずなら、どうだったでしょう?
「ごめん。通りすがりの泣き虫お姫さまにしか思えない」と、完全玉砕していたかもしれません。
相手が、闊達自由な性格のダミアン王子だからこそ、ストレートな手紙の真実が伝わった。そうも云えます。
事ほどさように、男女の出逢いと恋の行方は、玄妙にして一期一会なのです。
思考実験のつもりが、アイリスちゃん擁護の恨み節みたいになってしまいましたねw

代理について。
実の母のように自分を取り上げ、育ててくれたアルベルタ。
彼女は、ほぼ姿を見せない王妃の代理ですが、シャルロッテをして「少なくとも、わたしはおまえのものよ!」と叫ばしめるほど、大事な大事な存在でした。
代理も代筆も、いわば「贋物」なのに、人の心を深く搏つ。不思議な自家撞着の世界です。
「Fate stay night」において、衛宮士郎が英雄王に叩きつけた痛快極まる「まがい物が本物に勝てないなんて道理はない!」を想い出しました。

姫と王子との式当日、船でドロッセルを離れるカトレアさんとヴァイオレット。
「よい結婚日和です」
おお、ヴァイオレットちゃんの透明な笑顔が!こんな美しい笑顔は初めてかも。

視聴者をホッとさせたのも束の間。港で待っていたのは、憎悪のまなざしを向ける一人の男でした。
「ディートフリート・ブーゲンビリア…」
「手紙か。多くの命を奪ったその手で、人を結ぶ手紙を書くのか?」
ブーゲンビリア海軍大佐。第2話で登場し、ヴァイオレットをギルベルト少佐に託した、ブーゲンビリア家の長男ですね。
戦場という桎梏は、未だヴァイオレットを解放してくれてはいなかったのです。

ギルベルトとディートフリートの容貌や髪型が似ています。顔の傷や、眼つきの悪さで見分けがつくレベル。兄弟だから似ているのはあたりまえっちゃあたりまえなのですが。
ディートフリートは孤児のヴァイオレットを最初に見出した人物でもあるし、この二重像(ダブルイメージ)には深い意味があるのかな
巧みな引きですね。次回が気になります。

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2018年2月 3日 (土)

ヴァイオレット・エヴァーガーデン第4話

愛してる、が届かない。
優しい嘘と、残酷な真実と。
花の名。名に込められた思い。

観終わってすぐ、心に去来した偶感です。検証してみます。

優しい嘘
アイリスは、故郷の両親に見栄(みえ)からの嘘をついていました。でも、両親は、彼女の可愛らしい嘘をとっくに見抜いていたのです。
「そのために呼び戻したの?嘘までついて!」
「…あなただって嘘ついてるでしょ!ライデン一のドールだなんて!」
優しい嘘が、あわや綻びかけた瞬間。
でも、心がしっかり繋がっていたアイリスと両親は、手紙を介して無事に和解できたのです。
アイリスの嘘はもちろん見栄ですが、同時に、両親を心配させたくない気持ちの顕れ。
わたし頑張ってるから安心して。それは、永遠の子供心です。
両親も、本当は気づいているにもかかわらず、娘の嘘に付き合っていました。
これを、ただの虚偽と切って捨てることはたやすい。でも、優しい嘘が人の心を救うことだってあるのです。

残酷な真実
エイモン。アイリスを振った男。
「振られた、とは、言い寄ったけど拒絶された。好意を示したけど撥ねつけられた」
あまりにも的を射すぎた読解です。的確すぎて、ぐうの音も出ません。抉りますねえヴァイオレットちゃんw
やめてあげて!アイリスちゃんのライフはもうゼロよ!(笑)
「ごめん。幼馴染としか思えない」
決死の「愛してる」に対して、エイモンのそっけない拒絶。
岸辺露伴の「だが、断る」よりキツイです。アイリスが「もう、消えたくなっちゃった」って嘆くのも分ります。
残酷な真実は、ときに人を傷つける。それも、取り返しのつかないほどに。
届かない「愛してる」に、ヴァイオレットは衝撃を受けました。少佐の気持ちに思い至ったからです。
愛してるを探す旅が、一歩前進した瞬間でした。

真実にまつわるもう一つのエピソード。ヴァイオレットの義手に素朴な反応を示す子供たち。
「きれい!」
「チタン?」
大人たちは、ヴァイオレットの義手に「戦争の惨禍」を看てしまいます。だから、驚いたり気を遣ったりします。
でも、子供は直感で真実を云い当てる力をもっています。「きれい」は、あるいは真実なのかもしれません。

名前について
父親がくれたアイリスの花束と、車窓に拡がるいちめんの花畑。
アイリスは、ふと呟きます。
この花が満開の時に生まれた。だから、両親はわたしにこの名をつけた。
「私が名前をつけていいか」
ギルベルト少佐は、名を持たない孤児の少女に名前を与えました。
「…ヴァイオレットだ。成長すれば、きみはきっとその名にふさわしい女性になる」
新生ヴァイオレットの誕生です。
孤独な少女と戦争で心を病んだ男の愛と悲劇とを描いた、永遠のオールタイムベスト映画「シベールの日曜日」。その、感動的なラストシーンを想起しました。
ただ一人彼女が心を許して、自分の本当の名を告げた男。その死を知ったシベールの悲痛な叫びが、心を打ちます。
「わたしにはもう名前なんてないの、わたしは誰でもなくなっちゃったのよ!」

さらに特筆すべきは、水にまつわる映像演出
水たまり。初めと終わりで、アイリスが足を突っ込んでしまう、駅前の泥濘。
終わりのシーンでは、雨上がりとともに水たまりは小さくなっているように見て取れるので、これもアイリスの心の復権を象徴しているのかもしれません。

「あの子に何かあったの?」
傷心のアイリスが駆け去り、茫然とする母親。
このとき、水田に蕭条とふる雨の映像が重なります。アイリスの、そして両親の心の風景を表象しています。
水の演出で名高いのが、映画監督タルコフスキー。彼の芸術映画。
「惑星ソラリス」「ストーカー」などに描かれた水の映像は、もはや象徴の高みへと昇りつめています。
京アニ演出も、塁を摩する巧みさまで迫っています。あとは、象徴の高みにまで昇華できるかどうか。期待が高まります。

多事都合により短評にするつもりが、結構な長文になりました。
やはり、京アニ作品は人をして語らしめるものを持っていますね。

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2018年1月25日 (木)

【考察】ヴァイオレット・エヴァーガーデン 心の旅路

1-1
これは、心を持たないヴァイオレットに託された、心についての物語。心を育てるための庭の物語。
エヴァーガーデン。永遠(とことわ)の庭。
花の名に表象された「花咲く乙女たち」が奏でる言葉がかたみに響き合う、美しい庭。
だって、そこはevergardenなのだから。緑したたる庭=世界を舞台にした、evergreenな物語なのだから。
彼女たちが紡ぐ光と影の日々は、いま始まったばかりだ。

1-2
乙女たちの名は、それ自体が「象徴の森」。花言葉からも窺える。

ヴァイオレット。謙虚、誠実、小さな幸せ。
カトレア。成熟した大人の魅力、魔力、魅惑的。
エリカ。孤独、博愛、良い言葉。
アイリス。よい便り、メッセージ、希望。

カトレアとエリカの場合は「現在」を。
ヴァイオレットとアイリスの場合は、彼女たちが追うべき「未来」を示唆していることは、自明の理だろう。

1-3
成熟と未成熟。理性と感情。戦争と平和。
矛盾するものを、より高次の次元で統一し、止揚していく。まさに、物語としての醍醐味が溢れるロマンだ。

2-1
映像作品において「言語」の問題を取り扱う至難を、京アニほどの手練れであれば、とっくに知悉しているはず。
だから逆に、映像に注力する。それが、これまでの京アニの試行錯誤だった。
果敢に挑み続ける京アニの新たな挑戦に、心からの拍手を送りたい。
あの「氷菓」も、当初こそ映像表現が勝ち過ぎて、フラットな物語を表現の奇矯さでリカバリーしようとした無謀な試みかと思われたけど、終ってみれば、京アニの里程標的な傑作となったのは周知のとおり。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンも、充分拮抗できる強度を保った物語となり得る。その構えの予兆は、充分に読み取れる。

2-2
ヴァイオレットの奇矯な行動は、まるで幼子のそれのよう。そのイノセントは、人々を攪乱し、困惑させる。
でも、幼子だということは、いわば大いなる特権。
人間の成長段階は、三段階から成るというのが、ニーチェの思想的根幹だ。
ただ忍従する駱駝の精神から始まり、「我は欲す」の強大な獅子の精神を経て、ついには、聖なる肯定を体現する「幼子」となる。
そこに至って、人間は「無限の自由」を獲得する。
(ニーチェ「ツァラトストラかく語りき」)
だからこそ、幼子であるヴァイオレットの無垢な精神は、周囲への波紋を拡げていくのだ。
花咲く乙女たちに、不思議なコレスポンダンス(交感)がゆっくりと拡がっていく。

エリカ。何事にも自信を持てない悩み多き眼鏡っ子は、いつの日か、人の心に響く手紙を書きたいと希求する。いわば、もう一人のヴァイオレット。

アイリス。いつか、有名女優のラヴ・レターを代書してみたい。そんな表層的な虚飾すなわちアイドル(偶像)に憧れる普通の少女。自動手記人形のドールは、「アイドール」のメタファーかもしれない。そんな他愛ない語呂合わせの誘惑にすら駆られてしまう。彼女の成長もこれからだ。

カトレア。
成熟した大人の女性として、濃厚な蠱惑をふりまく彼女。
ホッジンズの愛人(?)として、ヴァイオレットの師にも反面教師にもなり得る両義的な存在。
カトレアの強烈な魅惑は、この清潔なクリスタル・クリアの物語に、性愛の視座すら提供可能なのだ。

ホッジンズがヴァイオレットを庇護するのは、何故だろう。盟友であるギルベルト少佐への義理?それとも?
ヴァイオレットの、シルバーメタリックな義手が気になっている。
直接的には、帰還兵士たちを待ち受ける苛酷な戦後を描いたアカデミー賞9部門受賞の名作映画「我等の生涯の最良の年」を想起させる。主人公の一人、傷病兵であるホーマーの両腕は、金属製の鉤のような義手だった。「プリンセス・プリンシパル」第6話の、あの親仁が装着していた稚拙な義手だ。
それに比べれば、ヴァイオレットの義手は遥かに精巧で、むしろヒトの手よりも美しい。そこに、特異的な美を見出すことだって可能だろう。
「彼女は、無い腕を持っている。だからこそ美しい」。
フェティシストは、そういう幻視的思考のもとに、腕の欠落した女を愛するそうだ。
澁澤龍彦が喝破したように、「人体欠損」はフェティシズムに繋がっていく。ヴァイオレットは、性愛の対象たりうるのだ。あくまで、例えばの話だが。

ゆえに、人の良さそうなホッジンズの、今後の立ち位置が気になる。彼がフェティシストだと云うのでは、無論ない。
ピグマリオン・テーマには、映画やミュージカルでおなじみの「マイ・フェア・レディ」のような物語も包摂される。イノセントな少女を自分好みの女性に育てていく物語。
唯一、少佐の消息を知っている人物として、彼はヴァイオレットに最も影響力を揮える男でもある。
孤児の少女を庇護する、気の良い「あしながおじさん」を演じているうちに、父性的な愛情が、男女の恋情に変化することだって、蓋然性としては考えられるのだから。

3-1
人は、望むものを手に入れられるとは限らない。
ヴァイオレットは、少佐の「愛してる」を理解できる「言葉」を手に入れることはできるだろう。
でもそれは、彼女の望みをかなえてくれるとは限らないのだ。

3-2
「心の旅路」の果てに彼女を待つものは、未だ予断を許さない。
この物語における最大の謎は、もちろん、少佐のゆくえ。
ホッジンズの「戻ってこない」しか手がかりはない。生死すらも不明。
それでも、ギルベルトが、辺境伯という貴顕の家の出自であることは示されている。
ヴァイオレットとギルベルトを隔てる隘路は、いくらでも考えられる。
波乱万丈が売りの、英国ロマン文芸の伝統から類推できる、いくつかのパターン。

(1)すでに死んでいる。
(2)生きているが、失明などの致命的な障害を負っている。体の自由が利かない。
(3)すでに婚約者がいる。あるいは妻がいる。
(4)名家ゆえに、恋愛の自由はない。孤児であるヴァイオレットが受け入れられる余地はなく、想いは届かない。

3-3
ヒトならざる者として出発したヴァイオレットが、ヒト、つまり感情豊かな女性として、ささやかな幸福を得る。そんな愛すべき「感情教育」の物語になるのだろうか。
あるいは、彼女が得た言葉は、既に死んでいる少佐へ手向ける挽歌にも似た手紙として結晶し、昇華されるのだろうか。
そんなカタルシスも悪くはないのだが。

3-4
私としては、さらに一歩を踏み出す、深化した物語を期待したい。
可能性の一つは「戦う乙女」。手紙すなわち言葉の力によって、彼女とギルベルトとを隔てる困難きわまる現実に挑み、変革していく。言霊の力を信ずる私としては、そんな積極的な物語をこそ観てみたい。
そう、凛々しいヴァイオレットには、想いを成就した「花咲く乙女」より、むしろ「ワルキューレ」を望みたい。
ワルキューレ。戦う男たちを、神々の館ヴァルハラに導いて、魂を憩わせる女神。
なってほしい。物理的な武器の代りに、言葉という精神的な武器によって、人が生きていくには厳し過ぎる世界を浄化する、力強い「生のワルキューレ」に。
そのとき、物語の地下水脈を流れるもう一つのテーマ、「戦場と日常」とを止揚する救世(ぐぜ)の祈りは完結するのだ。

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ヴァイオレット・エヴァーガーデン第3話

おにいちゃん、生きていてくれてありがとう。嬉しいの
ヴァイオレットのしたためた簡潔きわまる手紙は、ルクリアを救うとともに、自分自身をも救いました。
この一歩は、ヴァイオレットにとってささやかな、しかし大きな一歩となるはずです。

「奇跡の人」三重苦のヘレン・ケラーは、稚い時の病気が元で、視覚・聴覚・言葉の三つを失いました。
そんな彼女が、言葉を認識し、覚醒するきっかけとなったのは、清冽な井戸の水。
その水を浴びたとき、彼女は、失っていた言葉を取り戻したのです。
ウォーター!」
あまりにも有名な台詞であり、感動的なエピソードです。あの「ガラスの仮面」でも、マヤと亜弓がダブルキャストで演じる屈指の名場面として描かれていましたね。
ヴァイオレットにとっての「ありがとう。嬉しいの」こそが、ヘレンの「ウォーター!」」に呼応する。そう感じました。

美辞麗句を連ねる饒舌体も悪くはないけれど、本当に人の心を搏つのは、実は簡潔な表現。
「巧言令色すくなし仁」(「言葉巧みに愛想をふりまく者には誠実な人間が少なく、人として大事な仁の心が欠けている」)なんていう、中国の故事もあります。

戦場における冷厳な報告体の言葉と、人の心に伝わるべき真実の言葉とを巧みに結びつけた今回のエピソードは、この物語にとってとても示唆的でした。
日常テイストに移行したヴァイオレット・エヴァーガーデンの物語は、すごくいい感じで推移しています。いよいよ期待感が高まります。やはり、今期アニメの白眉といえます。

予定しているヴァイオレット・エヴァーガーデンのガチレビューでは、哲学者ウィトゲンシュタインの言語と映像をめぐる認識論を引用するつもりでしたが、いざ纏めてみると、長文の中では煩雑に亙り過ぎていることが判明したので、すべて削除しました。
その削除部分の断片を、ここに再現したいと思います。

ヴァイオレット・エヴァーガーデンの物語は、言語の問題を映像化するという、京都アニメーションの野心的な試みの結晶化。
映像の魔術師として夙に知られる京アニには、言語と映像と認識の問題を極限まで追究した哲学者ウィトゲンシュタインの次の言葉を贈って、ささやかなエールに換えたい。
・「ある事態を思考することができる」とは、その事態について映像を描いてみることができる、ということである。
・すべての映像は、論理映像である。
・論理映像は、世界を模写することができる。

閑話休題。本編の感想に戻って、締め括りますね。

「伝えたい本当の心をすくい上げること。あなたはその一歩を踏み出したのです」
小公女セーラのミンチン先生みたく謹厳な学院長が、ヴァイオレットの前途をあたたかく祝福してくれました。
彼女の、「愛してる」を探す心の旅路は、ようやく緒についたのです。

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2018年1月18日 (木)

ヴァイオレット・エヴァーガーデン第2話

「気に入らないから代金を支払わないのは違法行為です。
どこがどう気に入らないのか、具体的で適切な指示をすみやかにしてください」
いいぞヴァイオレットちゃん、もっと云ってやれ!

 

マリオ崩れのおっさんや、頭悪そうな私だって愛してたのよ姐ちゃんなど、悪質クレーマーにも毅然として対応できる。しかも、戦場で鍛えた実戦能力はきわめて高度。
一社に一人は欲しい逸材です。ドールなんかさせておくのは惜しいよまったくw

それにしても、あのねえちゃんのカオスな思考までを忖度できるようになったら、「愛を知りたい」ヴァイオレットちゃんに悪影響を及ぼすんじゃないかなあ。
言葉には裏と表がある。口に出したことが全てじゃない。そんな「裏腹」までを理解できるようになったら、ギルベルト少佐畢生の「愛してる」でさえ、疑ってかかる悪いクセがついちゃうかもしれません。

寡黙な眼鏡っ子のエリカさまは、いろいろコンプレックスを抱えていらっしゃるようです。ヴァイオレットちゃんと倶に、彼女の成長も観てみたい気がします。
でも、ホッジンズの会社って、ドール未経験者の代筆した手紙を検閲もせずに出しちゃうガバナンスの欠如とか、給料の遅配も日常茶飯とか、かなりやばくてブラックっぽいので、彼女たちの将来が心配です。
ヴァイオレットちゃんとエリカさまなら、ボクが雇ってあげてもいいかな。
(無根拠にえらそうw

Cパート、髪を結い上げたヴァイオレットちゃんが、セイバーに視えてしまいました。いやホント、このまま聖剣エクスカリバーを揮っても違和感ない凛々しさです。
少佐は戻ってこないようだし、これからはマスターを探す旅にもなりそうな予感が。
って違うかw

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2018年1月11日 (木)

ヴァイオレット・エヴァーガーデン第1話

愛してる、を知りたいのです!」
心を持たない自動人形ヴァイオレットの、心を探す旅が始まりました!
京都アニメーションが満を持して放つ、英国ロマン文学風味が横溢する野心作の開幕です。

さすが京アニ、冒頭シーンから瑰麗な映像で見せてくれます。
しかも、ただ美しいにとどまらず、ヴァイオレットの書いた宛先のない手紙が風に舞い、線路や街を飛翔していくという、この作品のライトモティーフまでを端的に表現し得ている。心にくい演出ですね。

自動手記人形、つまり代筆の仕事となれば、手紙に込められたさまざまな感情に出逢い、心を育てていく展開が予想されます。
気になるのは、ホッジンズ元中佐がぽつりと洩らした言葉。
「学ばない方が、知らない方が楽に生きられるかもしれない」
「いや、燃えているんだよ。いつか、俺が云ったことが分るときがくる。そして初めて、自分がたくさん火傷をしていることに気づくんだ」
戦争中は、ただギルベルト少佐の命令にしたがって、戦場を駆け抜けるだけでよかった。それが、心を持たない彼女の存在理由の総てだった。
でも、心を持ってしまったら、過去の自分の本当の姿に気づいてしまったら…。
今後、ヴァイオレットが直面しなければならない厳しい現実と葛藤とを、巧みに暗示しています。

人形が感情を持つ物語は、爾来、ピグマリオン・テーマとして流布しています。手紙をめぐる物語の傑作も枚挙にいとまがありません。しかし、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も、それら傑作に伍する品格を感じます。
可愛らしい自動手記人形の仲間たちもいますし、次回以降は、もしかすると日常物のテイストになるやもしれません。
それはそれで愉しみなのですが、でもやはり、本筋であるヴァイオレットの心の成長を主軸にして、感動的に描いてほしい。第1話のような、品格と緊張とを持続させてほしい。
京アニの手腕に熱い期待を寄せたいと思います。

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