2017年12月24日 (日)

魔法使いの嫁第12話

父や母との、やさしく穏やかな想い出。
母親に殺されかけた悪夢でなく、幸福だったころの夢が視られるようになったのは、闇落ちしていたチセの心が救われかけている証左。
そしてそれは、エリアスと過ごす日常が影響しているのは間違いありません。

稚いころから「怖いもの」が視えていたチセ。
そんな異能を母に疎まれて、殺されかけたのでしょうか。依然として分明ではありません。
視聴者に想像の余地を思いっきり残すのが、まほよめの作劇なのでしょう。

「おいしい」
エリアス、ルツ、シルキーと囲む穏やかな食卓の描写で、今回は終わりました。
でもCパートは、何やら不穏な雰囲気が漂っています。
「わたしは、今のあなたの傍にはいられない」

See you in JANUARY 2018.

まほよめは続くんですね
だから、悠久の時を刻むような緩やかさでも平気だったのか。
つまりは、生存戦略に勝ち残った者の余裕ということでw

老いたドラゴンのネヴィンが、チセに「救い」について語ります。
『自らを貶めることは、チセに救われた者たちを軽んじることだよ』
説得力があります。
あるのですが、ただやはり、大事なことが全て台詞で語られる処に「木に竹を接ぐ」的な齟齬が纏綿してしまう。
しかし、原作者のインタビュー記事を読んで、ようやく得心が行きました。

2014年の、ヤマザキコレさんへのインタビュー記事より引用(「ダ・ヴィンチニュース」)。
私は本当は、もっと救いのない、重い話が好きなんです。
ただ、救いがないと、読んでくださる方も描くこちらもしんどいですよね。

もちろん、救いのある話もない話もどちらも楽しいのですが、今は現実社会にあまり余裕がないように思われるので、せめて本の中だけでも、ある程度の救いが必要な気がして。
『確かに大変なことも多いけど、世界には美しいものもたくさんあるんだよ』というメッセージが、少しでも伝わるといいな、と思っています」

なるほど!
原作に込められた意図やメッセージが理解できました。
本来は、もっとダークなお話になるところに、「救い」の要素を点綴していたのか。
読者の心情に配慮し、バイアスチェンジが行われている。そう考えると、悲劇と救いとの狭間に横たわる微妙な齟齬も、しっくりきます。

同人誌から誕生した「魔法使いの嫁」で、たまたま通りかかった編集者に見出され雑誌連載が決定したのは、まったくの偶然。
創作同人誌即売会用にもっとダークな作品を予定していたが纏まらず、急遽、以前からあたためていた「魔法使いの嫁」を掲載。それが幸運を齎したというのです。
ヤマザキさんの他の作品は寡聞にして知らないのですが、このコメントを見る限り、おそらく重い作品なのでしょうね。

次回以降語られる、チセとエリアスの新たな救いの物語に期待します。

羽鳥智花(井上喜久子)
羽鳥一樹(川田紳司)

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2017年12月17日 (日)

魔法使いの嫁第11話

「僕は人を食べたことがあるのかもしれない」
なかなかに衝撃的なエリアスの告白なのですが、「まほよめ」空間においては、衝撃さえもすぐに「浄化」されてしまいます。

「わしは喰わないでくれよ?」「膝の上の猫が人喰いだと知ったら、ちょっとは驚くじゃろ?」
リンデルさんが思いっきりスルーしてくれたお蔭で、すべて世は事もなしって気分が充溢しちゃうんですよね。
この軽みが、まほよめの長所でもあり、短所でもある。狙いは理解できるのですが、作劇効果として物足りなさを感じさせるのは、やはり勿体ないと思ってしまうのです。
リンデルによるヒーリングたっぷりの歌も含めて、今回は特に、悠久の時を刻むような、ゆったりした「緩さ」を感じました。

チセだけでなくエリアスも、存在自体の不安を抱えて生きてきたことが、前回と今回で判明。
だからこそ、「あなたに云えなかったこと、話します」とチセが云ったのでしょう。
この作品のメインテーマは「浄化による愛の成就」でしょうから、心理の「」を強調しつつ浄化を描くのは、作劇として正しい手法です。
問題なのは、チセもエリアスも、その出自から、もっと葛藤や屈折があって然るべきなのに、言動が妙にウブで稚いこと。リンデルが「子供が二人」って呟くのも、よく分ります。
つまり、テーマやエピソードの重さと、二人の心理とが噛み合わない。拮抗が生じない。だから、「闇と浄化」というテーマがぼやけてしまうのです。

「君がいないと、何だか家が寒いよ」
申し訳ないが、その台詞自体が寒いっすよエリアスw頑張ってるのは分るけどw
ここでチセがすかさず、
「はわわわ。恥ずかしいセリフ禁止!」とでも返してくれれば、ARIAっぽくてまだ観られるのですが、チセがすっごくまともに受け止めているので、視聴しているこちらが恥ずかしくなってしまうのですね。

いろいろ書きましたが、何だかんだいっても視聴してるんだから、結局は好みの作品なのでしょう。
魔法使いファンタジーで、ケルト系の妖精たちがてんこ盛りで登場する。確かに、好みの要素が満載のアニメです。

まほよめで私がいちばん好きなお話は、第9話、リャナン・シーのエピソードです。あれはステキでした。
「昔、ここでとても美しいひとを見たんだ」
「さっき、また眼が合った気がしたんだよ」
ささやかな台詞と、二人がそっと寄り添う映像描写だけで、永遠の恋を成立させてしまう。映像表現としての純度が高くて、説得力に充ちています。
お見事です。これこそが、アニメ作品ならではの醍醐味だと思うのです。
これが出来るんだから、って、ついつい要求が高くなってしまうのですよね。

ドラゴンの郷でリンデンバウムの魔法の杖を完成させたチセは、ある決意をしたようです。

次回予告。
リンデンバウムの杖が、彼女の方向を示す。
彷徨の果てに、少女が選んだのは。
「お願い、あの人のところへつないで」

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2017年12月10日 (日)

魔法使いの嫁第10話

失われた自我を求めて

魔法使いエリアスの「誕生」が描かれました。最初から魔法使いというわけではなかったんですね。
限りなく精霊や妖精寄りだけど、人間も入っている。そんな奇妙なハイブリッド生命体が彼だったのです。
気がついたら、森を歩いていた。それ以前の記憶はただ一つ「」。

「夜が二つ脚で歩くような」。リンデルは、初対面のエリアスの印象をそう語りました。
夜の闇のように漆黒で、影のように不確かな存在。
魔法使いとして自我を得たのちも、自分は何者なのかという根源的な不安は消えない。
ゆえに、エリアスは人間であるチセを傍に置き、保護者を以て任じることにより、失われた自我を確立しようと無意識に欲したのかもしれません。
チセは未完成な人格かもしれませんが、エリアスも決して完璧な存在ではなかった。
二人の関係性は、決して一方的なものでないという可能性が示唆された瞬間でした。

リンデルの師はラハブ。旧約聖書由来の名です。
でも、聖書においてラハブは娼婦の名なので、このラハブ姐さんとは直接の関係はなさそうです。
師ということは、数百年を遥かに超える無窮の時を生きたリンデルよりも、さらに長命ということに。

チセは、魔法使いが長命であることをやっぱり知らなかったのですね。
「リンデルさんは、いつから生きているんですか。ほかの魔法使いも、みんな長生きなんですか」
「あの馬鹿骨め!何も説明しとらんではないか!これでは…」
エリアスは、チセよりずっと長命。一緒に暮らせる時はきわめて短い。その事実を告げるのが怖かったのでしょうか。

エリアスにとっても、チセはやっと見つけた安息の地。だから失いたくない。
「神々や精霊は、君をいつも見ていてくれる。だから安心して自分自身を救いなさい」
ラハブの言葉は、生まれたてのエリアスの柔らかい心に沁みたはず。
その救いをチセにも齎したい。そうすれば、彼女も自分も、ともに救われるはず。
エリアスは、そう願っているのかもしれません。

魔術師レンフレッドは、相変わらず心配しています。
「このままおまえと暮らすだけにさせていたら、彼女はダメになるぞ」
他人なのに、まるで小姑みたいですなw
ともあれ、チセが彼女自身を救うための自立への道が、徐々に見えてきました。

「私も、あなたに云えてなかったことを話します」
次回、ついにチセの過去が明確になるのかな?

ラハブ(三石琴乃)

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2017年12月 3日 (日)

魔法使いの嫁第9話

アンジェリカ「チセ、それは依存じゃないのかい?」「あんまりいい子でいるんじゃないよ」
チセ「あたしは…ずるい。捨てられても構わないって考えながら、捨てられたくないと思う。あたしは自分勝手だ」
こういう自分の責め方をする人って、何だか自殺しちゃいそうで怖いんですよね…

チセに、エリアスからの精神的自立を促すアンジェリカさん。
エリアスとの関係性をどうするべきか、思い惑うチセ。
彼女の迷い方は、いわば「出口なし」状態。答えを見いだせずに袋小路に迷い込んでしまうタイプの苦悩です。

そこへ絡ませてきたのが、初老のジョエル・ガーランドさんと美しき吸血鬼(リャナン・シー)の恋のエピソードでした。
リャナン・シーはケルトの妖精。常に、人間の男性の愛を求めて彷徨っている。
彼女の愛を受け入れた男には詩の才能と美しい歌声が与えられるが、徐々に精気を吸い取られて早逝してしまうのだそうです。
男が彼女の魅力に応じない場合は、何とか振り向かせようとして奴婢のごとく従う、ともあるので、ガーランドさんの場合はこれなのかな?
でも、彼には彼女が視えていたのです。

ガーランド「昔、ここでとても美しいひとを見たんだよ」
リャナン・シー「さっき、また眼が合った気がしたわ」

ほんの一瞬だけど、彼には自分が視えた。存在を認めてくれた。だから一緒にいたい。
ヴァンパイアらしからぬ、純情すぎる恋です。
この恋人たちは、不思議な関係性を保ちながら、ずっと幸福に暮らすのでしょうね。死が二人を分つまで。

恐らくは長命のエリアスと、スレイベガの出自ゆえに短命の定めにあるチセは、どう生きるべきなのか。
二人の関係性について、新たな視点が見えてきた気がします。

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2017年11月26日 (日)

魔法使いの嫁第8話

日曜出勤から帰宅。明日も仕事なので、急ぎ、感想を記します。

今回、あらためて感じたのは、本作が平衡感覚にすぐれているアニメだということです。
破調を予感させつつ破局には至らない。ぎりぎりの地点で戻ろうとする力が働く。生物学でいえば、ホメオスタシス(恒常性)ですね。
エリアスが魔獣と化し、チセは理を捻じ曲げようとして、互いに危うく踏みとどまった。
魔術師カルタフィルスは、不老不死という「呪い」をかけられ、既に自分の行動原理を喪失している「狂える遊星」のような危険な存在。でも、今回は何故か身を引いた。
そして、魔犬のユリシィことルツは、愛するイザベルと訣別したのち、チセに誘われて共に生きることを決意。
「あなたの帰る処が、私の帰る処だ」
象徴的な台詞でした。

「まほよめ」においては、例えばイザベルの無慙な姿で視聴者を慄然とさせても、すぐに救いが訪れる。予定調和のように帰る場所が用意されている。
つまりは、優しい物語なのですね。

でも、せっかく破調を演出するのであれば、いちどは突き抜けてみてほしい。生半可な救いも及ばない地点にまで、いったんは視聴者を連れて行ってほしい。
それでこそ、「浄化」の美しさがいっそう際立つ。輝きを見せる。それが対比の効果、それがドラマだと思うのです。
名作「鋼の錬金術師」には、それがありました。

チセが、破格の魔法力の片鱗を見せました。この力は、彼女にとって諸刃の剣。チセを活かしもすれば、滅ぼしもするでしょう。
一方的に護られる側だったチセが、強大な能力を発動させることにより、主体的に生きる道を見出しかけている?
保護者を以て任じていた魔法使いエリアスは、スレイベガの彼女を何処まで護り切れるのか?
そもそも、二人の関係性はどうあるべきなのか?

物語の着地点を、ぜひ見届けたいと思います。

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2017年11月19日 (日)

魔法使いの嫁第7話

チセの体が貫かれた!
犯人は、ラスボスとおぼしい魔術師カルタフィルスだ!
激昂したエリアスの人型が崩壊!もはや暴走魔獣と化している!

怒りのクライマックスなのですが、ちょっと引っかかる部分もありました。それは後述。

ふらっと迷い込んだ墓地で、カオナシ的な魔と遭遇したチセ。
エリアスの傍をちょっとでも離れると、すかさず魔が寄ってきます。スレイベガ体質もいろいろ大変です。
この危機を救ってくれたのは、あの黒髪美形さん。名はユリシィ。
「おまえはイザベルに似てるな」
正体はブラック・ドッグだったか。いわゆる魔犬ですね。
赤毛のイザベルに面影が似たチセに、シンパシーを持ったようです。

ブラックドッグを渡せと襲ってきたアリス。チセに眠らされ、拘束されて、嫌々ながらも事情を語り始めます。
レンフレッド先生の片腕は、イカレた奴(カルタフィルス)に持って行かれた。
キメラの素材にするためだ」
キメラ?何処かで聞いたような展開ですね。

いきなり、カルタフィルスの襲撃!
口封じのためにアリスを消そうとしたらしいが、チセを誤爆。
ところが。
「モルモットなんでしょ、その子?キミが人間になんて執着するはずないもの」
しれっと嘯く闇魔術師さんに、エリアスの怒りが大暴発したのが、冒頭引用のクライマックスです。

えっと、こんなクソリプ的ツッコミは野暮だとは分っているんですが、一言いいですか?
エリアスさん、チセを護るってつねづね広言している割に、ガードが甘すぎる。文字通りの意味で。
「むやみに歩き回るなよ」とか云って、何の用があるのか知りませんが、忽然とチセの傍を離れてしまう。
お蔭でチセは、墓地でカオナシに襲われかけました。
今また、エリアスの眼前で、致命的に傷つけられて…。

もちろん、これが本作の「作劇法」だということは承知ですよ?
チセ(ヒロイン)が危地に陥り、エリアス(ヒーロー)が救いに行く。恋と冒険の物語における常道です。
ただ、エリアスがいかにも迂闊っぽく見えてしまうのが、盛り上がりとしてマイナスに働いているのは事実。
「まほよめ」を大いに評価している一人として、敢えてオーダーきつめに書いてみました。

ただこれは、私がチセとエリアスの関係性を、「護る」エリアスと「護られる」チセと整理しているゆえかもしれません。
これまでのエピソードが、チセの成長を描きつつも、本流は「美女と野獣」めいた二人の関係性に収斂する描き方をしてきたためです。
今後、チセの成長に重きが置かれる展開になるのかもしれませんね。その点は判断保留しておきます。

チセとエリアス、最後のクエストは、魔術師カルタフィルスとの直接対決。
奴はキメラを造ろうとしているらしい。そのために、実験用の人体を欲し、ブラックドッグを手に入れようとしている。
生命の尊厳を弄ぶなど、人道に悖る所業です。既に人間じゃないかもだけどw
「鋼の錬金術師」の、国家錬金術師ショウ・タッカーと娘のニーナのエピソードを思い出しました。
あの「オニイチャン、アソボウ…」はキツかったなあ。今でもトラウマな台詞です。

カルタフィルス(村瀬歩)急速に力をつけている28歳の若手声優さんです。

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2017年11月12日 (日)

魔法使いの嫁第6話

「エリアス」
「ん?」
「わたしはいつ死ぬんですか」
「何もしなければ三年くらいかな。策は考えてあるから、心配しなくていいよ」
「死なないようにする実験ですか」
「無尽蔵の魔力の貯蔵庫であるスレイベガを傍に置いたらどうなるか…」

チセとエリアスの関係性が、映画や舞台でも知られる「マイ・フェア・レディ」であることが、改めて明確にされました。
つまり、人生経験のない少女を手元に置いて、自分好みの魅力的な女性に育て上げるというアレです。
スレイベガの本質など、物語の要諦についての説明が為されたのはありがたいのですが、全て台詞でというのが残念かな。
台詞で説明する演出はもはや、まほよめという作品の「語り」のスタイルそのものなんですね。個性だというなら仕方がありません。

片腕を失っていたレンフレッド。魔術の対価にでもされたのか?名作「鋼の錬金術師」の影がちらついております。
マシューを籠絡したろくでもない魔術師もいましたね。お話にしっかり絡んできそうな予感です。

Bパートは、妖精の森へ。
眠れる森のチセ殿。この森は、妖精たちの領分らしい。
妖精女王ティターニアが、重厚な感じで登場します。おっぱいが、たぷんたぷんに揺れています。一応、お色気担当さんらしいですが、気品がありすぎて近寄りがたい感じ。
ボクはもうちょっと庶民的な巨乳さんが好みなのですが、それはともかくw

妖精王オベロンも登場。威厳の欠片もないお子様でした。ツノが生えていて、フォーン(牧神)みたいな姿です。
とはいえ、妖精王としての魔力は流石で、眠れるチセを目覚めさせました。
そのあと、チセにちょっかい出しまくるのが限りなく鬱陶しかったけれど。山口勝平さんの軽みのある演技はさすがでしたが。
あまりにうざいオベロンを見かねて、お付きのスプリガンに命じ、猛犬をけしかけさせる妖精女王。
悲惨な仕置きと思いきや。
「歓んでるし…」
「ああ、そういう趣味の人か」
ぼそりと呟くチセちゃん、なかなか云いますねえ。
もはや、妖精王の威厳も何もありませんなw

家に帰れば、時期外れのクリスマスプディングがテーブルに。
シルキーさんの心づくしです。チセ、嬉しそうに食べています。
英国のプディングはお菓子に限りません。蒸した料理の総称がプディング。
いわゆるプリンは、「カスタード・プディング」というお菓子なんですね。
食事を通じての心のふれ合いとか、さりげないシーンを描かせると、まほよめは天下一品だと思います。

ラストには、またまた謎めいた引きが。
「イサベル…」
墓石の前にたたずむ長髪の男は?

次回、最後の旅とのこと。早くもファイナルエピソードになるのかな?

オベロン(山口勝平)なるほど勝平さん!軽さを演じさせれば天下一
ティターニア(大原さやか)あらあらまあまあは、ここでも健在
スプリガン(安元洋貴)

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2017年11月 5日 (日)

魔法使いの嫁第5話

魔術師「知ってるかい、猫には九つの命があるんだ」

悲劇の誕生

チセが、呪われし存在と化したミナとマシューを、スレイ・ベガの魔力で消し去るのでなく、エアリエルの風の力も借りて「帰るべきところへ帰した」場面が美しかった。作画も劇伴も、力が入っていました。

放浪の魔術師にたぶらかされ、愛が妄念と化したマシュー。
猫たちの惨殺シーンがキツかったっす。名作「鋼の錬金術師」にもこのテの陰惨な描写がありましたが、それを連想させてくれるインパクトでした。
虐殺の果てに、不気味な霊薬が完成。魔術師の目論見では、不死さえも実現できる薬だったはずなのですが。
ミナさん崩れてドロドロに!
「あーあ、失敗か、形が崩壊しちゃった」
世界の美しさを思い知らされたエピソードでした(泣)

「みんな帰り方を忘れてしまった。だから、あなたに消してほしいの」
チセは、エアリエルの風の力を借りました。
魂を、風に乗せて。
ミナとマシューの迷える魂は、たんぽぽのように、何処かでまた花を咲かせるのでしょうか。
猫殺しから、いきなりイイ話になりましたね。サブタイトル「最後に愛は勝つ」が、ここで活きてきました。

去りゆくミナが、チセにエールを送ります。
「小さな魔法使いさん。できれば、あなたがまだこちらに来ないよう祈ってる」
エリアスの姿をみつめながら、チセは呟きます。
「やっと止まり木をみつけたかもしれないのに。わたしはいつ死ぬんだろう」
チセ殿、気持ちは分るけど、ダウナーな台詞ばかりでは、それこそ失調してしまいますよ?作品全体としてもw

前回、総合的なレビューは次回を待ってから、と書きました。
ここから、エピソード全体の感想になります。

美しいお話であることは間違いありません。間違いないのですが、「愛」という観念が先行し過ぎている感があり、アニメ作品としてのカタルシスが弱まってしまったことも事実です。
つまり、ミナとマシューの愛情や、猫のモリーの献身は確かに美しいけれど、肝心なところがほぼ全て言葉で説明されており、観念的に視えてしまうのが、映像作品として弱いのです。
モリーが二人の先導を務めるために命を賭そうと試みる場面を、いったん映像アクションとして挿入してみせ、後から説明を加えるという手法はどうでしょう?
例えば、モリーが、消されそうになった二人を救いに飛び込んでくるとか。
そうすれば、サプライズを演出することができます。視聴者をひきつけるアニメは、サプライズ技法を随所に取り入れて、物語を盛り上げるのに成功しています。

今のように、丁寧に説明しながら物語を進めていく手法は堅実ですが、その一方、予定調和感が強まって、視聴者の感銘を削いでしまう結果にもなりかねません。
「まほよめ」は、きわめて質の高い作品なので、期待値も高まります。
アニメとしての勢いをつけるためにも、映像や演出面のさらなる工夫を期待したいと思います。

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2017年10月29日 (日)

魔法使いの嫁第4話

猫の町を訪れたチセエリが見たものは、禍々しい「ケガレ」だった。
チセエリなんて変な略し方するなよというツッコミはナシの方向でお願いしますw

人語を解する猫たちが跋扈する、田舎の町。
文学で云えば、萩原朔太郎「猫町」や日影丈吉「猫の泉」を思わせる設定です。
猫を虐待し、猫に反撃された陰惨な歴史を包含する町という意味では、むしろ美内すずえのホラー傑作「金色の闇が見ている」の雰囲気でしょうか。

1話完結しなかったので、総合的なレビューは次回に廻し、あらすじを追いながらの逐次感想です。

チセまたしても受難。攫われて、湖に放り込まれます。
「遅れてごめんね」
君を護ると云っておきながら、毎度毎度、隙をつかれてチセを攫われるエリアスに、思わず苦笑。
チセが湖の底で出逢ったのは、不思議な美女でした。
彼女は、チセに囁きます。
「この人を、あたしを、殺して」

青い湖に揺曳する不吉な黒いモヤモヤは、穢れ(ケガレ)。浄化されない魂の淀み。
九つの命をもつ猫でさえも知らないほど遠い昔、猫殺戮者の男がいた。
その男とは、夫のマシュー。
病弱な妻ミナの生を贖おうとして、猫から命を錬成しようとしたのでしょう。愛ゆえの妄執ということか。
初代の猫の王は、男を喰らいつくし、欠片も残さず消滅させた。
しかし、ミナがケガレの核となり、マシューの妄執は遺った。
ケガレを鎮撫するのは、代々の猫の王の務め。それも限界に。だから、チセたちに浄化をしてもらおうというのですね。

浄化の役割を、チセに頼むエリアス。
「きみに浄化してほしい」
「なぜ、あたしに?」
「私の本性は影だから、浄化は向いていない」
それは建前で、何か意図がありそうな気がします。
恐らく、浄化する儀式を通じて、チセを変えたいと思ったのではないでしょうか。
チセに、世界を愛する気持ちを取り戻してほしい。世界は味方じゃないかもしれないけれど、決して敵ではないのだから。

横槍を入れたのは、魔術師レンフレッド。妖精エアリアルを鉄の手袋で捉えます。何かの実験に使おうというのでしょうか。このために、チセたちに「仕掛けた」ということなのかな。
レンフレッドは、チセは実験体なのかと問うた後、エリアスに冷然と告げます。
「彼女に伝えたらどうだ?スレイベガの末路を。遠からず訪れる、その死を」
そのまま次回へ。
いよいよ、スレイベガなるチセの出自が明かされるのかな?

ミナ(沼倉愛美)このはなの仲居頭さん
マシュー(上村祐翔)中島敦
レンフレッド(日野聡)もう日野ちゃまなんて気軽に云えない貫録

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2017年10月22日 (日)

魔法使いの嫁第3話

絶海の孤島で魔法使い同士の死闘が見られるかと思いきや。
チセが子ドラゴンたちと戯れ、老いたドラゴンと心の交流をする抒情エピソードでした。

絶滅危惧種であるドラゴンと魔法使い。アイスランドは、危惧種同士のいわば居留地。
水の底には、年老いたドラゴン、ネヴィンが。老いたドラゴンは、稠滅して木や草に還る生命サイクルを辿るらしい。
いのちの最期に際して、チセを諭すネヴィン。きわめて饒舌です。おもに語りでお話が進んでいきます。

「もしかして、わたしの記憶を…」
ネヴィンはチセの心を読み、それに基づいて語っていたのですね。
チセの謎過去が、再び暗示されました。繰り返される、スレイベガという出自。
いちばん肝心なところを伏せつつお話を進める手法は、作劇術としてアリではあるけれど、どちらかと云えばサスペンスやミステリ系の作品に有効な手法です。
「まほよめ」の場合、チセの過去を前提として感情が吐露されるので、前提がもう少し視えないと、視聴者にとってはキツイ。語りに乗れない。

「生きるために…。これが自然か」
「通りすがりに優しくしてもらっただけのひとだったし。でもやっぱり、あの穏やかな還り方はうらやましい」
チセのモノローグに深い葛藤が込められているのは推察できますが、あくまで推察止まり。視聴者である我々には、彼女の内心の苦悩が響いてこない。彼女の抱えた傷や、背負う運命の重さやらが伝わらないからです。極言するなら、「チセの一人芝居」に視えてしまっています。

アニメとしての質の高さを保持しながら何故か地味地味に見えてしまうのは、この「朦朧体」とも云える作劇術のせいもあるのではないでしょうか。
暗示や余情に頼る作風なのだから仕方ないっちゃ仕方ないのだけれど、勿体ない気がします。
どうしてもサプライズを演出したいのなら、私だったらいったん過去(仮)を明かしておいて、後でひっくり返します。中途半端な現在の状態より、その方がサプライズとしても生きてくるのではないでしょうか。

チセを攫ったのはリンデル。魔法使いにして、ドラゴンの巣の管理者です。挙動がいちいち胡散臭いのがカワイイ。
エ「こんななりでも、僕よりずっと年上のイタズラじじいだから」
リ「きさま!」
エリアス竹内良太35歳。リンデル浪川大輔41歳
確かに浪川が年上だが、「ずっと」というのは可哀そう…(笑)

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