氷菓第17話感想
#17「クドリャフカの順番」
すべての鍵は、嫉妬だった。
えるちゃんの、体を張った放送出演が功を奏し、古典部の部室にはギャラリーが蝟集。
ところが、衆人環視の中、「校了原稿」が燃やされた!
そして、現場には、十文字からのカードが。事件は完遂されたのだと。
奉太郎と田名辺先輩の会話を里志が立ち聞きし、十文字事件の真相が顕かに。
さらに、奉太郎は、事件を終幕させることと引き換えに、文集の30部引き取りを提案。双方の利害が一致したため、交渉成立。
河内先輩と摩耶花の対話。先輩は「夕べには骸に」を、自恃にかけても認めたくなかった。才能に対する、複雑な想いが語られる。
それは、十文字に扮して陸山にメッセージを送った田名辺も、同じだった。
河内先輩が、回廊の手すりに描き遺した「ボディトーク」のイラストに、思わず涙する摩耶花。
文集は無事に完売。めでたしめでたしと思いきや。
えるちゃんの、真相が気になります攻撃が勃発!
意趣返しなのか、里志も煽りを入れ、奉太郎が思わぬ窮境に立たされて…。
お約束の大団円でしたねw
視聴を終えて、さまざまな感慨が去来しました。
ここでは、謎解きと人間劇と、二つに絞ってみます。
謎解きについて。
本命である「ク」の意味は「クドリャフカの順番はクガヤマムネヨシから失われていた」。
そして、犯人である十文字の動機は、やはり「メッセージ」だった。
うんうん、なるほど。自然であり、納得の解です。
それにしても、アジムタクハにも、犯人特定の手がかりが包含されていたとは…。
いや徹底してますね。この緻密さというかこだわりは、原作者の米澤さんならではなのか。
関係者全員が犯人というような、クリスティの某名作のような処理でも別にいいかなと思っていたのですが、ちゃんとタナベを特定できるようになっていたのか。
カンヤ祭のパンフからも、犯人が総務委員だと特定する道すじがあったのも好印象です。
人間劇について。
各エピソードで、何かしらの余韻を遺してきた「氷菓」ですが、「クドリャフカ」も、謎解きはすっきり畢ったものの、モヤモヤ感が纏綿しております。
里志や摩耶花、河内先輩の心情に、つい感情移入してしまうからなのでしょう。
こういうエピソードに接したとき、いつも想起するのが、アンデルセン「絵のない絵本」の一節です。
「彼は深い情熱をもって芸術を愛したが、芸術は彼を愛さなかった」
あるいは、モーツァルトとサリエリの確執を描破した名画「アマデウス」とか。
摩耶花や河内先輩、田名辺たちが余計に辛いのは、肝心の陸山が(たぶん安城も)、自分の才能に恬淡としており、活かすつもりがないという事実。
ことに、摩耶花の行く末が気になります。
彼女にとって、一連の出来事は「試金石」であり「踏絵」でした。
「夕べには骸に」に端を発した、越えがたい才能の壁の問題。
そして、人間関係に軋轢が生じてしまった漫研において、今後どういう立ち位置で活動を続けるのか、それとも別の選択肢を取るのか。
それにしても。
天才は幸福なのか?才能とは絶対なのか?
「天才とは、自ら困難を設定し、自らハードルを上げていく才能である」
「才能は安住し、天才は刻苦する」
そんな箴言が、脳裡をよぎります。
「儂にあと5年の命があれば、本物の絵描きになれるのだが」
数え年90歳で薨去するまで生涯現役だった葛飾北斎の、最期の詞(ことば)です。
恐らく、真の才能にとって、ゴールなど無縁なのでしょう。
漫画の神様、手塚治虫は、後進への面倒見のよさで知られていましたが、ライヴァル心の強烈さでも、つとに有名でした。
手塚が経営していた漫画専門誌「COM」において、その当時人気を博していた、石森章太郎の詩的作品「ジュン」に嫉妬し「あんなものはマンガじゃない」と讒言しました。
ストーリーマンガを確立した手塚にとって、ストーリー性を放擲したかに見える「ジュン」のような実験作品は、容認できなかったのでしょう。
しかし、後に石森に謝罪し、和解した顛末が、石森の短篇作品に遺されています。
若い才能への嫉妬心ゆえに、周囲とトラブルを繰り返した事は、手塚自身も自伝で告白しているところです。
驚嘆すべきは、押しも押されもしない大家となっても、絶えず自分を叱咤し、嫉妬心すらも創作へのエネルギーに変えてしまう手塚の情熱と執念です。
結論は、こうです。
嫉妬自体は負の感情かもしれないけれど、その人の考え方や姿勢次第で、正に転換することもできる。
里志や摩耶花には、負の感情すなわちルサンチマンに溺れることのない、未来を見据えた生き方を択んでほしいと思います。
そう、あの奉太郎ですら、入須部長や、賢姉である供恵さんから見れば、「お釈迦様の掌の上」状態なのだからw
次回「連峰は晴れているか」
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» 氷菓 第17話 「クドリャフカの順番」 感想 [wendyの旅路]
果報は寝て待て― [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 18時53分
» 氷菓 第17話 「クドリャフカの順番」 [つれづれ]
絶望と期待。
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受信: 2012年8月13日 (月) 19時19分
» 氷菓 第17話 「クドリャフカの順番」 感想 [ひえんきゃく]
今回の事件は面白かったですね。
これまでの伏線が繋がって……、長かったけどこれは良かったですよ。
それぞれの想いもしっかり描かれていましたしね。
果たして古典部に現れるのか、怪盗「十文字」!?
...... [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 19時40分
» 氷菓 第17話「クドリャフカの順番」の簡単な感想 [恋染紅葉、パジャマな彼女。と「くーちゃん」こと音巻まくらを全力応援中のブログ。To LOVEるダークネスと結城美柑&金色の闇が好きだあっ!!(新さくら日記)]
たしかにえるたそは下手に画策するよりも単刀直入な方がえるたそらしくていいですよね…
それにしても奉太郎の推理…推理力はすごすぎでしたね。ある意味怖くなってしまいます…
簡単なあらすじ
えるた...... [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 19時48分
» 「氷菓」第17話 [日々“是”精進! ver.F]
十文字事件、解決…
詳細レビューはφ(.. )
http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201208130000/
TVアニメ 氷菓 ドラマCD1ドラマ ランティス 2012-08-22売り上げランキング : 101Amazon... [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 19時49分
» [アニメ]氷菓 第17話「クドリャフカの順番」 [所詮、すべては戯言なんだよ]
最高のミステリーを見させてもらいました。ミステリーはトリックを推理するだけの作品が多い中でそのトリックが一つに収束しその動機となる部分での悲哀と絶望と犯人との交渉や犯 ... [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 21時05分
» 氷菓 第17話「クドリャフカの順番」 [MAGI☆の日記]
氷菓の第17話を見ました
第17話 クドリャフカの順番
――売れる、売れるぞ。もうすぐ完売」
放送部の放送に出演したえるのおかげで氷菓も残りわずかとなるのだが、大勢のギャラリーを前に校了原稿が...... [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 21時43分
» 氷菓 第17話 クドリャフカの順番 [窓から見える水平線]
氷菓 第17話。
文化祭クライマックス、十文字事件の真相。
以下感想 [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 22時11分
» 氷菓 チバテレ(8/12)#17 [ぬる~くまったりと]
第17話 クドリャフカの順番 公式サイトから果たして古典部に現れるのか、怪盗「十文字」!?大勢のギャラリーを前にターゲットとなる「校了原稿」を前に緊張する古典部の4人。結局、4人は怪盗「十文字」を捕らえることが出来たのか!? 千反田が校内放送に出演。十文字事件について話す。里志の立案で内容は宣伝に。古典部は4人で人が足りません、文集氷菓の校了原稿を 準備しています。皆さんのお力を貸してください。文集も買って下さい。 犯人を捕まえようと人が集まり、文集が売れる。奉太郎が背伸びをすると里志のスマホが鳴る... [続きを読む]
受信: 2012年8月13日 (月) 23時09分
» 氷菓〜17話感想〜 [ブラり写真日記〜鉄道・旅・アニメのブログ。]
「クドリャフカの順番」
えるは校内放送のラジオに出演。
メモを片手に古典部の文集「氷菓」のことを話す。
えるの校内放送のこともあり、古典部にはたくさんの人で賑わっていた。
突然、里志のケータイが鳴り、その後「校了原稿」が爆発。
里志が消すも、なぜか机に水溜りができていた。
文集と共にあったメッセージ。
またしても、十文字の正体はわからず。
そして、里志の回想から奉太郎の推理シーンへ。
十文字の正体は総務委員の田名..... [続きを読む]
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» 真実は苦さと共に アニメ感想 氷菓 第17話「クドリャフカの順番」 [往く先は風に訊け]
諦めと期待と [続きを読む]
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» 氷菓 #17 「クドリャフカの順番」 [戯れ言ちゃんねる]
才能への羨望と絶望
どうも、管理人です。ようやくコミケ疲れが抜けてきたので、そろそろ本格的に動かなきゃと思う一方で、さっそく躓いた件…。ちょっとばかり研究しないとねw
???:「僕はずっと期待していた」
今回の話は、文化祭編最終話。畳み方的にはわりと綺麗でしたが、愚者のエンドロール編並に苦いなぁ…。そして、ネタバレ対策と言うことで、ちょっとばかし書き方を変えてみます。具体的には、全体的にぼかす方向で。では、参ります。
前回ラストの引きの通り、お昼の放送で話すこ..... [続きを読む]
受信: 2012年8月14日 (火) 22時54分
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氷菓 第十七話「クドリャフカの順番」です。 アニメ版『氷菓』も、『クドリャフカの [続きを読む]
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氷菓 -HYOUKA-
第17話 『クドリャフカの順番』 感想
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受信: 2012年8月17日 (金) 17時30分
コメント
いつも御訪問ありがとうございます。
トラバがうまくできないのでコメントで失礼します。
妖精帝國 臣民コンソーシアム 2012年02クール 新作アニメ 氷果 第17話 雑感
http://tdragon2000e.blog7.fc2.com/blog-entry-3094.html
投稿: t_dragon_2000 | 2012年8月13日 (月) 23時11分