氷菓第19話感想
#19「心あたりのある者は」
登場人物は、奉太郎とえるちゃんのみ。
舞台も部室内にほぼ固定という、会話による推理劇でした。
お話の構成は、ケメルマンの名短篇「九マイルは遠すぎる」を踏まえているようです。リスペクトと謂ってもいいかもしれません。
動きが最小限なだけに、作画や演出に、制作側の工夫が傾注されていました。
とりわけ、奉太郎の推論に「マジメにやってます?」「不自然です」と抗議するえるちゃんが清新で、ステキな蠱惑を放っていました。
「愚者のエンドロール」事件のとき、3人の名(迷)探偵の推理に不服そうだった彼女ですが、あのときは、ウイスキーボンボンで酔っぱらっていたという伏線がありました。
裏返せば、今回の反駁は、「奉太郎さんは頼りにならない人じゃありません!」って力説しているわけで、これがまたカワイイ。
堂々と反論ができるのも、それだけ、「二人の距離」が縮まった証左なのかもしれませんね。
きっかけは、些細な事でした。
えるちゃんの「奉太郎さんの推理力は才能です!」という絶賛を浴びて、照れ隠しか、元々の持論ゆえか、偽悪的な態度をとる奉太郎。
「推論の達人なんかじゃなくて、ただの運の良い奴。頼りになんかならない」ことを疎明するために、どんな状況にもそれなりの理屈がつけられる事を証明しようと試みる。
折よく、校内放送が流れます。
「10月31日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」
さて、放送を受けて、奉太郎の推論が開始されます。
「全生徒が揃う翌朝でなく、放課後のいま放送した」
「生徒指導部でなく、教頭先生じきじきの呼び出しである」
「通常なら放送を2度繰り返すのに、1度しか放送しなかった」
「昨日の事を、わざわざ10月31日と読み上げている」
これらの断片的な手がかりから、奉太郎は次のような推論を行います。
緊急性があること。
もはや生徒指導部では手に負えない、管理職レヴェルの大事(おおごと)、つまり犯罪性があること。
10月31日と読み上げたのは、元になる文面(謝罪文)が存在するということ。etc.
推論に夢中になったあまり、二人が最初の目的を忘れ果ててしまうのはご愛嬌ですね。
翌朝の新聞地方版で、奉太郎の推論が正鵠を射ていたことが確認される、というオチがつきました。
原典と目される「九マイルは遠すぎる」の名推論は、話者である「私」の挑戦に、探偵役のニッキイ・ウェルト教授が応じる場面から始まります。
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」
たったこれだけの言葉から、教授が、驚くべき推論を展開します。
そして、推論は現実の殺人事件と見事に一致。解決に至ります。
きっかけは、今回の「氷菓」と同じく「推論の否定」の証明のはずだったのに、結局は…というオチも類似ですね。
ミステリの愉しみとは、「論理のアクロバット」。
推論そのものは蓋然性に頼っていても、ロジックの流れをスムーズにつくることで、読者を首肯させれば、作者の勝ち。
「そうかなあ?」「不自然だ」と読者に思わせてしまったら、失敗です。
謝罪文について、疑義を抱いた方が多かったようですね。
逆に謂えば、謝罪文がなくとも、以下のような捜査を経て、神山高校に辿り着くことができるはず、というのが衆目の一致するところなのでしょう。
①小学生相手のお店で、一万円札を使うお客は珍しく、注意を引きやすい。
②神山高校の制服を着た客なら、猶更である。
③ゆえに、偽札事件が発覚すれば、神山高校の生徒を疑うのは容易なはず。
ただの想像ですが、学校には「教育の自立」から派生する「聖域」「警察権力の不可侵」概念があるので、状況証拠だけで警察が踏み込むのはムリがある。
それを不可避に見せるには、謝罪文のような具体的証拠が必要だと、作者が気を廻した結果なのかもしれません。
次回は、お正月ネタのようですね。
えるちゃんの着物姿とか、いろいろ愉しみです。
次回「あきましておめでとう」
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» 「氷菓」第19話 [日々“是”精進! ver.F]
証明と推論…
詳細レビューはφ(.. )
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氷菓 (2) (カドカワコミックス・エース)タスクオーナ 米澤 穂信 角川書店(角川グループパブリ... [続きを読む]
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» 氷菓 第19話「心あたりのある者は」 感想 [コツコツ一直線]
今回は奉太郎とえるが部室でひたすら放送の内容について、推理する話。原作で読んだ時は色々心配でしたが、最後まで飽きませんでした。奉太郎とえるのやりとりが堪りませんhellip;!さすが京アニと言いたくなる回でしたー。... [続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 20時27分
» 氷菓 #19「心あたりのある者は」感想 [サブカルなんて言わせない!]
ははっ このツンデレめそうは言っても誰かに認められて嬉しい素直じゃない折木くん話の流れからどんなものでも理屈を付け加えられる少し大袈裟にMMRのキバヤシよろしく大層な話に仕立てる折木真実から外れれば外れるほど折木の思惑通りであるしかし進める内に本気で推論を始めちゃうお金は好きですか?って女の子に聞くなよww折木劇場ですな事実は小説より奇なりを劇中でやっちゃうという倒錯した構成オチが効いていて一話完結にして気持ちのいい締め方でしたしかし今回はこの小話で終わりかいこの二人のイチャイチャなんか直接すぎてあ... [続きを読む]
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» 氷菓 第19話「心あたりのある者は」の簡単な感想 [恋染紅葉、パジャマな彼女。と「くーちゃん」こと音巻まくらを全力応援中のブログ。To LOVEるダークネスと結城美柑&金色の闇が好きだあっ!!(新さくら日記)]
えるたそのうふふふふという笑い方が可愛かったですね…
っていうか、奉太郎とえるたそこいつら夫婦すぎるだろう…
簡単なあらすじ
これまでも様々な謎を解いてきた奉太郎に対して、えるたそは全幅の信...... [続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 20時33分
» 『氷菓』#19「心あたりのある者は」 [ジャスタウェイの日記☆]
「ちょうどいい機会だ。俺が頼りにならないと分からせてやる」
ひょっとしたら人生で一番真面目かもしれない。
放課後、部室で二人きりの奉太郎とえる。
奉太郎が関谷純の話を振ると、葬儀は無事すんだと...... [続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 21時10分
» 氷菓 第19話「心あたりのある者は」 [破滅の闇日記]
氷菓 (2) (カドカワコミックス・エース)(2012/08/24)タスクオーナ商品詳細を見る
奉太郎&エルのみが登場人物。里志&摩耶花は顔出しませんでした。シーンはずっと地学準備室で、場所移動もありませぬ。内...... [続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 21時10分
» 氷菓 第19話 「心あたりのある者は」 [つれづれ]
理屈とシップはどこにでもくっつく。
[続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 21時11分
» 氷菓 第19話 心あたりのある者は [窓から見える水平線]
氷菓 第19話。
奉太郎とえるの推論ゲーム。
以下感想 [続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 21時24分
» 氷菓 第19話 「心あたりのある者は」 感想 [ひえんきゃく]
奉太郎とえるがイチャイチャしてたというお話ですね(笑)
奉太郎の推理を才能と褒めるえる。
奉太郎自身はそんな「たいしたものだ」と自分の事を言うのは
違うと反論する。
そんな時、古典部部室全体を...... [続きを読む]
受信: 2012年8月27日 (月) 21時46分
» 氷菓 第19話「心あたりのある者は」 [空 と 夏 の 間 ...]
短編シリーズ(?)その2ですね。
登場するのは、奉太郎とえるちゃんのみw
なんというバラ色空間(´▽`*)
氷菓事件のきっかけとなった叔父さんの葬式も済んだそうで。
えるちゃんは、奉太郎にお線香をあげて欲しいと誘います。
頬を赤くして言われたら、奉太郎も赤くなっちゃうよねw
... [続きを読む]
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受信: 2012年8月27日 (月) 22時13分
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あぁ、なんだか心温まる話だったなぁ。結果的に今までで一番のオオゴトだったのに、全然そう感じさせない二人だけの楽しい空間。なんだか腑に落ちないように話を運ぶ奉太郎と、気 ... [続きを読む]
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摩耶花の出番がないですね(^^;
でも、えるたそが可愛すぎて個人的に満足!
氷菓 限定版 第3巻 [Blu-ray](2012/08/31)中村悠一、佐藤聡美 他商品詳細を見る [続きを読む]
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第19話 心あたりのあるものは 公式サイトから奉太郎の推理を才能と褒めるえる。奉太郎自身はそんな「たいしたものだ」と自分の事を言うのは違うと反論する。そんな時、古典部部室全体を校内放送の音声が包んだ。この放送がとんでもないことになっていく!? 部室に千反田と二人の奉太郎。関谷純の葬式はどうなった?滞りなく終わりました。今度、お線香をあげてもらえませんか? 俺の事を運の良い奴だと言うのは構わないが、 大した奴だと言うのは止めてくれ。おれが推論の達人だと? 何か一つ状況を出してみろ。丁度いい機会だ、俺が... [続きを読む]
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瓢箪から駒― [続きを読む]
受信: 2012年8月28日 (火) 06時01分
» 氷菓〜19話感想〜 [ブラり写真日記〜鉄道・旅・アニメのブログ。]
「心あたりのある者は」
部室で二人きりで過ごす奉太郎とえる。
そんな中、こんな校内放送が流れる。
「10月31日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、
至急、職員室・柴崎のところまで来なさい」
この放送を聞いた奉太郎は言葉を分析し、
さらにこの生徒をXとし、推理を行う。
謎の生徒Xですねw
えるのこんな表情は初めて見たw
昨日ではなく、10月31日と日付で読んだ理由。
弘文堂に謝罪文を出した日だからだと..... [続きを読む]
受信: 2012年8月28日 (火) 13時09分
» 考察の30分 アニメ感想 氷菓 第19話「心あたりのある者は」 [往く先は風に訊け]
ただ、淡々と [続きを読む]
受信: 2012年8月28日 (火) 21時04分
» 氷菓 第19話 「心あたりある者は」 [北十字星]
千反田えるに折木奉太郎があてにならないと
思わせるつもりが、反対に千反田えるは
無言で答えるとは・・・。
ぎゃふんと言わずに再び好奇心で返すとは
千反田えるは、手側手強いですね。
...... [続きを読む]
受信: 2012年8月28日 (火) 23時22分
» 『氷菓』 第19話 観ました [「きつねのるーと」と「じーん・だいばー」のお部屋]
今回のネタは、推理を楽しむのも普通に楽しめるものの、奉太郎とえるちゃんのやり取りと表情を楽しむ面も多々あるように思え、非常に楽しめました。
この二人のこの時の関係を言うのであれば『友達以上、恋人未満』ですよね。個人的に非常に憧れる男女関係の形なのですが...... [続きを読む]
受信: 2012年8月29日 (水) 02時23分
» 2012年02クール 新作アニメ 氷果 第19話 雑感 [妖精帝國 臣民コンソーシアム]
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氷菓 第19話 「心あたりのあるものは」 #kotenbu2012 #ep19
京都アニメーションの渾身の作品。原作は、米澤 穂信氏。青春ミステリーということでどんな内容なのか楽し...... [続きを読む]
受信: 2012年8月30日 (木) 20時41分
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» 氷菓 第19話「心あたりのある者は」 [ボヘミアンな京都住まい]
「昨日のゲームのきっかけは確か・・・瓢箪から・・・駒?」 いやそれ違うでしょ?(笑) でも100%夫婦‘漫才’な演出を予想していたので、(ある意味大真面目に)えると奉太郎の間の恋愛の芽生え的な要素をそこかしこに埋め込んできたのは意外でした。そもそも関谷純の墓前に線香をあげてくれるよう頼むシーンは原作になかったですし。本来は奉太郎に対してはパーソナルスペースがとても狭いはずのえるが彼と顔が近くなったのを意識して頬を赤らめたりとか、最終話の「遠まわりする雛」に向けて2人の関係性に少しずつクレッシェンドか... [続きを読む]
受信: 2012年8月31日 (金) 00時59分
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