氷菓第11話感想
#11「愚者のエンドロール」
名探偵の敗北。
すべては、「女帝」の掌の上に。
だから「愚者のエンドロール」か…。
全ての辻褄が合いました。
本郷さんの脚本では、鴻巣に刺された海藤(致命傷ではない)が、自力で移動し、密室を構成した。
つまり、殺人はなかった。
「なぜ(本郷さんや)江波さんに聴かなかったのか」
そもそも、本郷脚本を採用する気がなかった入須部長にとって「聴く必要がなかった」が正解。
一抹のやりきれなさが遺るのは、「そして誰も本郷脚本を大事にしなかった」という事実です。
殺人が発生しない「つまらない」脚本。入須部長もそう判断した。
だからこそ、古典部のメンツを招集し、推理コンペをさせた。
結果、最も「おもしろい」奉太郎の推理が採用された。
欺罔されたと知り、部長に詰め寄る奉太郎の表情に、いつにない迫力を感じました。
本郷さんを護ろうとしたと謂う、入須の詞に、奉太郎も、視聴者でさえ、得心できないからでしょう。
この結末は、もちろん受容します。
物語そのものが、ある意味叙述トリックだったのですね。
間然するところのない、巧みな構成でした。
ただ「わたし、気になります」なのは、「愚者のエンドロール」という表題が象徴するように、「解決はすべて相対化されている」のではないかということ。
特に「危うい」と感じたのは、里志から示された解です。
◎殺人が起こらない
×殺人が起こる
本郷脚本の真意を示すのには恰好のデータですので、いちおう、納得はします。
ただ、里志の解だと、○とか△の意味が不明瞭になります。
何よりも、×のうち、「花嫁失踪事件」「花婿失踪事件」「三破風館」には、慥か、殺人は発生していません。
同じく殺人のない「赤髪連盟」等の△の意味も分からなくなります。
また、画像で、ホームズ以降の簡略なミステリ史が表示されていました。
これだと、遥か後代まで、叙述トリックは生まれなかったように受け取れます。
しかし、このタイプの叙述トリックについては、1905年発表のルパン物に見事な作例があります。
さらに遡及して、既に1880年代(「緋色の研究」以前)に、ロシアの文豪チェーホフによる作例があります。
この画像も、「里志の解釈だから」ってエクスキューズされるのかな?原作ではどう表現されているのでしょうか。
「推理の神」奉太郎の推理が崩壊した時点で、「不確定性原理」が働き、物語と結末が相対化された。
そんなメタ解釈が、案外正鵠を射ているのかもしれません。
さらに余談ですが、「名探偵の敗北トリック」については、1910年代に超有名な作例があります。
今回、余談だらけですねw
次回「限りなく積まれた例のあれ」
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氷菓 第1話 ~ 第11話 愚者のエンドロール
省エネを信条とする高校一年生、折木奉太郎は、ひょんなことから廃部寸前のクラブ「古典部」に入部することに。「古典部」で出会った好奇心旺盛なヒロイン...... [続きを読む]
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氷菓の第11話を見ました
第11話 愚者のエンドロール
「カメラマンが7人目ってのは面白かったし、登場人物全員が一斉にカメラ目線になるシーンは迫力もあったわ。でも、あれじゃどこにもザイルの出番...... [続きを読む]
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推理作家だった…
詳細レビューはφ(.. )
http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201207020000/
氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]角川書店 2012-06-29売り上げランキング : 41Amazonで詳しく... [続きを読む]
受信: 2012年7月 2日 (月) 19時49分
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本当にサブタイ通りで痺れた。この4話完結の物語を締めくくるに最適かつ最高な終わり方でした。もう心を締め付けるけれど、希望が見えてより一層この作品の主旨が好きになりました。 [続きを読む]
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氷菓 第十一話「愚者のエンドロール」です。 アニメ版『氷菓』も、原作ですと2冊目 [続きを読む]
受信: 2012年7月 2日 (月) 20時15分
» 氷菓 第11話 「愚者のエンドロール」 [つれづれ]
奉太郎はタロットでいうと力。里志の例えが面白いですね。
[続きを読む]
受信: 2012年7月 2日 (月) 20時43分
» 氷菓 第11話 「愚者のエンドロール」 感想 [ひえんきゃく]
入須先輩も凄かったけど、奉太郎の姉貴はもっと凄かった!
奉太郎も大変ですね、色々と。
奉太郎に詰め寄る摩耶花。
真意を確かめる里志。
自分自身の思いを伝えるえる。
3人のいつになく厳しい表情に...... [続きを読む]
受信: 2012年7月 2日 (月) 22時39分
» 氷菓 第11話「愚者のエンドロール」 [空 と 夏 の 間 ...]
サブタイがなるほどで 良いですね~♪
何でも興味を示しちゃう者って意味もあるタロットの『愚者』。
好奇心の塊のえるちゃんにはピッタリですね (´▽`*)
『愚者』とは 本質を見極める目を持ってる。
えるちゃんが興味を持つのは 謎ではなく 人の方なんですよね~。
... [続きを読む]
受信: 2012年7月 3日 (火) 00時28分
» 氷菓〜11話感想〜 [ブラり写真日記〜鉄道・旅・アニメのブログ。]
「愚者のエンドロール」
摩耶花にザイルのことを指摘されて自分が行なった推理に対し、悩む奉太郎。
そして、えるとの会話によって本郷の気持ちに気付かされる。
思い悩む奉太郎に、タロットの本によって、自分がコントロールされているのではと考える。
そして、入須先輩と再び相対する奉太郎。
だが、入須先輩は本心を出そうとはしなかった。
チャットの中でも、入須先輩は悪役のような位置にいた。
そして、えるは本郷さんと似ているところがあ..... [続きを読む]
受信: 2012年7月 3日 (火) 14時52分
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今回の奉太郎と入須の対峙、緊張感が程よく表現されてましたね。なぜ奉太郎に依頼することになったのか、その真意を悟られたことに気づいてからの入須は誤魔化したり安易に言い訳や慰め・謝罪の言葉など口にすることなく、奉太郎の責めに近い言葉すべてを甘受していました(タロット占いの“女帝”の項目にあった‘母性愛’の彼女なりの表れではないでしょうか)が、その姿が絵やゆかなさんの演技でよく現れていたように思いました。入須に思いの丈をぶつけて尚消えない自身の複雑な感情を持て余している奉太郎の描写もよかったですね。 そし... [続きを読む]
受信: 2012年7月 7日 (土) 20時06分
コメント
いつもTBでお世話になっています。
確かに○と△の意味を説明していないですね。
この作品は解答が無くて、推理の検証をしないので、いつも納得できないのですよね…
千反田えるのために推理しているので、彼女が納得すれば良いようです。
アクロイド殺し以前に叙述トリックが有っても話は通じると思います。
ホームズだけを読んでミステリーを理解した本郷さんには
叙述トリックは作れないと言っているだけです。
ホームズ作品に叙述トリックが無ければ良いわけですから。
投稿: ぬる~くまったりと | 2012年7月 3日 (火) 19時53分
ぬる~くまったりとさん、ようこそ!
こちらこそ、いつもTBでお世話になってます。
前段について、賛同していただき、嬉しく思いました。
こっそり本音をいえば、ちょっと意地になった部分はあります。(笑)
後段の叙述トリックですが、実は、もし本郷さんがホームズ物に加えてノックスの十戒を読んでいたなら、あの叙述トリックも使えた可能性があるのですよ。
十戒の、まさに冒頭に、そのトリックのネタバレがあるのです。そのものズバリです。
でも、いずれにせよ、これは「物語」であり、登場人物の台詞は作者そのものではない、という事は弁えていますので、これ以上は緘黙したいと思います。
それでは、今後ともよろしくお願いします。
投稿: SIGERU | 2012年7月 3日 (火) 20時10分
そうなんすか、ヴァンダインは趣味の人と言う評価で
作家としては下手と勝手に思ってます…
なので今後も突っ込んで欲しいです。
私は、この作品は突込みどころ豊富で納得出来なくて…
京アニの作画力は分かりますが、やり過ぎ感を感じてます。
余談ですが○は恐らく人が死んでいないと思われるが詳細不明、
△は 1,2人しか死んでいないとかかなと考えました。
ホームズは昔読みましたが一切覚えてません。
投稿: ぬる~くまったりと | 2012年7月 5日 (木) 19時10分
ぬる~くまったりとさん、ようこそ!
風の噂で、◎と×のほか、〇や△がある基準とは、「後味のよさ」「良い話かどうか」だと聞きました。なるほど、それなら、殺人の有無よりも遥かに分りやすい基準であり、納得できます。里志の解は、その点に触れていないので不完全だったのですね。(原作には明記されているらしい)
投稿: SIGERU | 2012年7月 6日 (金) 10時55分
こんにちは。お久しぶりです。
個人的貧困な推理(犯人は海藤。要は自作自演で別に死んでなかったりする)を頭に、見たら今回はトリックより思惑やら暗い演出のほうが印象的でした。
次回からは文化祭の話のようですが、今度はどうなるんでしょう。「魔法少女まどか★マギカ」ならぬ「推理少女まやか★マギカ」になりはまさかなるまいとは思っていますが。さや太郎のソウルジェムは真っ黒ですよ。たぶん。
投稿: 秋文 | 2012年7月 9日 (月) 15時54分
秋文さん、ようこそ!
>犯人は海藤。要は自作自演で別に死んでなかったりする
鋭い推理でしたね!
私は、「海藤自身がザイルを使った可能性」も考えましたが、それはチェスタトンの某作品の連想だったり。
まやか☆マギカが降臨したらヤバイかもですw
原作の「クドリャフカ」に当たるようですが、解決は、平和が一番ですね。
投稿: SIGERU | 2012年7月 9日 (月) 21時30分