屍鬼第22話(最終話)感想
#22「蔡蒐話」
夜半に視聴していて、しだいに慄えが兆してくるのを止められませんでした。
何かとんでもないものと向き合っている、と直観したときの、あの心のふるえです。
閉鎖的な村で、凄絶な屍鬼狩りに淫する村人たち。
審判の日の神の浄火の如く、刻々と迫りくる山火事。
最後の破局に向かって、次々と死んでいく登場人物たち。
そして、屍鬼になってもなお神の恩寵にすがろうとする沙子に、やさしく諭すように呟く室井のことば。
「神は語らない」。
この台詞で、慄えは最高潮に達しました。
北欧の神秘主義映画の名匠イングマル・ベルイマンが大好きです。
ことに偏愛しているのが「神の三部作」と呼ばれる『鏡の中にある如く』『冬の光』『沈黙』。
なかんずく、神の沈黙を真向から描破した『沈黙』は、私の内なるベスト作品の一つです。
三部作の通奏低音である「神は語らない」が、『屍鬼』と呼応して、心の琴線を震わせたのかもしれません。
ざくろに続いて、最終話のみ感想です。
録画はしていたものの、通して視聴していないため、大局から屍鬼を語るだけの情報を持たないことを、まず告白しておきます。
心を揺さぶったのは、必死に逃げようとする沙子の姿であり、恵の惨酷な死であり、夏野と辰巳の相討ちだったことは間違いありません。
しかし、いくら沙子が哀れだといっても、恵が悲惨だったといっても、感傷で語るわけにはいきません。
屍鬼はやはり異類であり、人を脅かす存在であることに変わりはないのだから。
だから、どちらが正であり邪であるのか?どちらが生き残るべきだったのか?などの判断は避けたいと思います。
「こんな村なんか、なければよかったんだ!」
最期まで村を呪いながら、ほとんど私刑同然の酷さで殺されていった恵。
放映開始の当時は、恵ウザイ!とか思ってましたし、彼女がやってきた行為は褒められたものではありません。
でも。
腕を潰され、顔を潰され、なお死に切れず蠢く彼女に、杭が打ち込まれる。
彼女の死に様は、残酷美をたたえつつ、一種荘厳な感銘を与えてくれました。
そして、地獄穴の底で、辰巳との決着をつけるために、ダイナマイト爆死を選んだ夏野。
問題の解決ではなく、血闘のカタルシスでもなく、矛盾を抱え込んだままの「無理心中」の趣がありました。
不条理さえも感じさせる死には、ゴダール監督『気狂いピエロ』の、主人公が唐突にダイナマイト自殺するラストシーンが重なり合いました。
そう、かつて感銘を受けた映像作品との二重写しが、心に触れたのかもしれませんね。それだけ構えの大きな作品でした。
「屍鬼」「人狼」という異類をテーマにして、存在の不条理性にまで迫ったアニメ作品『屍鬼』は、小野不由美さんの原作の力と相俟って、ずしりと重みの籠った力作だったと思います。
2010年の終わりと、来るべき2011年がすぐそこに。
年の終わりに、こういう最終回に出会えた幸運を言祝ぎたいと思います。
| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 屍鬼第22話(最終話)感想:
» 屍鬼 第22話(最終話)「蔡蒐話」 [隠者のエピタフ]
屍鬼と「メメント・モリ」 [続きを読む]
受信: 2010年12月31日 (金) 23時55分
» 屍鬼 22話(最終回) [アニメ徒然草]
そして、痛みだけが残された。というわけで、「屍鬼」22話(最終回)勝利者などいないの巻。結局、村そのものが「掟」の象徴なんでしょうか。いや、掟というか世の中の「コト ... [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 00時10分
» 屍鬼 第22話(最終回)「蔡蒐話」 [◆◇黒衣の貴婦人の徒然日記◇◆]
ついに最終回--------------!!屍鬼と、人間の戦いの決着。一体どんなラストになるのか、ものすご~~く期待してた作品。陽が沈み、目を覚ました沙子。大川たちの声が聞こえる。では、... [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 00時31分
» 屍鬼 蔡蒐話 [つれづれ]
結局のところ静信大勝利?
[続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 00時41分
» 屍鬼 第22話「蔡蒐話」(最終回) [破滅の闇日記]
カレンデュラ レクイエム(屍鬼盤)(2010/11/17)kanon × kanon商品詳細を見る
火事というのは大団円のお約束の1つでしょうか。屍に覆われた村は、その上から炎に覆われていきました。これで、消防団や警察と...... [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 00時55分
» 屍鬼 第22話(最終話) 「蔡蒐話」 [インドアさんいらっしゃ~い♪]
車にはねられ、銃で撃ちまくられたりと集団リンチ状態の辰巳。如何に人狼が身体的に優れていてもこうも多くの人間相手では反撃すら厳しいか…てか、村人達の狙撃の腕立ち過ぎだろw... [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 01時32分
» 屍鬼 第22話「蔡蒐話」 [ミナモノカガミ]
争いの終焉。 [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 03時04分
» (アニメ感想) 屍鬼 第22話 「蔡蒐話」 [ゲームやアニメについてぼそぼそと語る人]
屍鬼 4(完全生産限定版) [Blu-ray]クチコミを見る
●意見交流の場として掲示板を設置しました。記事の感想や意見、原作ファンからの補足、もちろんアニメの感想も受け付けています。気 ... [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 21時24分
» 屍鬼 第22話(最終回) 「蔡蒐話」 感想 [ひえんきゃく]
いよいよ最終回を迎えた『屍鬼』でしたが、洋画っぽい終わり方でしたね。
まぁ、状況からしてHAPPY ENDは、有り得なかったわけですが。
夏野が人狼として起き上がってくるのは、漫画&アニメでの展開で...... [続きを読む]
受信: 2011年1月 1日 (土) 22時06分
» 屍鬼 第22話「蔡蒐話」 [SERA@らくblog]
毎回先の展開はどうなるのかと楽しませてくれたこの作品も最終話。
最後は予想通りな結末になっちゃったかな。
でも様式美って言葉もあるし、これはこれで正統ホラーな結末でしょうか。
▼ 屍鬼 第22話...... [続きを読む]
受信: 2011年1月 2日 (日) 00時18分
» 屍鬼 蔡蒐話 [バカとヲタクと妄想獣]
大門ダヨ
年明け最初のアニメ記事がこれか・・・
夜になり起きた沙子
静信がいなくなってるのに気づき追いかける
しかし静信は既に・・・
そして追っ手がせまる
[続きを読む]
受信: 2011年1月 2日 (日) 01時13分
» 屍鬼 第二十二話 [ぶろーくん・こんぱす]
囮になった辰巳を追い詰める村人達。容赦なく発砲し、車ではねて、蜂の巣に。 [続きを読む]
受信: 2011年1月 2日 (日) 13時48分
» 屍鬼 最終話 [にき☆ろぐ]
こちらも遅くなりましたが最終話の感想と総括です。私は原作の小説、漫画版ともに読んでいるものです。最終話は恵の末路、辰巳と夏野の対決、村の最後、静信と沙子とかなり盛りだく... [続きを読む]
受信: 2011年1月 4日 (火) 00時53分
» 【屍鬼】 第22話 「蔡蒐話」 [TOM's Garden]
生をかけた戦いの結末「生きる事」を意識した者は、どこまで行けるのでしょうか。「生きるため」に行ったことに、誰が善悪をつけるのでしょうか。そんな事を考えさせられた最終回で... [続きを読む]
受信: 2011年1月 4日 (火) 01時30分
コメント
アンケートのお願い
突然の書き込みで申し訳ありません。
ただいま、
アニメ調査室(仮)というブログで、
2010/10-12月期終了アニメアンケート
というものを行っています。
結果発表は、2011/2/5予定です。
もしよろしければ、
あなたのアニメ評価を教えてもらえませんか?
ご都合がつきましたらブログの方をご覧ください。
以上、
突然の書き込み失礼しました。
投稿: アニメ調査室(仮) | 2011年1月 2日 (日) 15時31分
感想を読んで、すごく綺麗な文章をお書きになるんだなと関心しました。素晴らしい文才と、そして何より屍鬼に対する愛情を持っていらっしゃることを感じ、ひとつ、この作品に対する解釈を伺いたいと思い、お尋ねします。この作者が作品を通して描きたかったものは何だと思われますか?
投稿: | 2011年1月 3日 (月) 15時15分
過褒なほどのコメント、ありがとうございます。何だか照れちゃいますねww
ご質問ですが、作者が、渾身の力で作品に込めたものを、一言二言で簡単に忖度するのは、実は不可能なのだと思っています。
でも、せっかくなので、簡単ですが、私の考えを書き出してみますね。
「生きるかなしみ」「神の沈黙」「永遠の闘争状態」「存在という不条理」などのキーワードが思い浮かびました。
屍鬼、という、人間の血を吸ってしか生きられない異類をきっかけにして、人と屍鬼との「闘争状態」を鋭く描破し、生と死、神の沈黙などの重くて重要なテーマを、問わず語りに浮かび上がらせる。
つまりは、作者が突きつけた「永遠の問題提起」ではないでしょうか?
矛盾を矛盾のままにして、ことさらな解決をつけない、という手法に、それが感じられます。
「神はいつも何も言わない。神の祝福と、生きること死ぬことは、関係がないんだ」
神の沈黙を、住職(聖職者)である室井の口から語らせたのにも、大きな意味が込められています。
ルールを振りかざす大川が、室井に殺される(否定される)という終劇は、もっと巨大な「自然界のルール」の存在を示唆している気がします。
そして、自ら滅しようとした沙子が室井によって救出される結末には、「喪失と再生」の可能性を感じました。
屍鬼も人も、矛盾に充ちた「生のかなしみ」を抱え込みながら、それでも「生きて」いかなければならない。
作者の、強いメッセージが感じられます。
こんなところかな。取り合えずのお答えにはなったでしょうか。
投稿: SIGERU | 2011年1月 4日 (火) 06時49分