鋼の錬金術師第61話感想
#61「神を呑みこみし者」
神さえも呑みこんで、至高の存在となった、フラスコの中の小人。
掌の上で、太陽さえも造り出せるという、その圧倒的な力。
こりゃダメだ、もう止められない!と誰もが絶望した瞬間に、華麗なる逆転劇が!
前回「天の瞳、地の扉」で、神人と化したお父様。その対価として、アメストリスは全滅。
ここまでいっちゃうと、後はもう、冨野の『イデオン』じゃないけど、魂だけの存在となった全員でインガ地平にでも翔んでいくしかないかと危惧していたんですが。
さすがは荒川さん、形而上学に変換することなく、きちんと、人間たち(とホムンクルス)の物語に戻してくれました。
最後の最後まで、「ヒトノキモチ」にこだわり続ける心意気や良し!
ヒューマニズムの大巨匠、手塚治虫とはまた別の地平を切り拓いた、金字塔的作品と言えるでしょう。
作者が、この作品に賭けた覚悟の力に、見ているこちらでさえも、粛然と襟を正す思いでした。
ホーエンハイムが、営々孜々として蒔いていた逆転の錬成陣が、ついに発動!
もう還るべき体を失ったクセルクセス人たちが、アメストリスの人々に託した想いが、崇高にして切なかった。
「ホーエンハイムが言うんだから…」
これは、奴隷のホーエンハイムと仲がよかった、あの少年かな?
こういうちょっとした演出が、また泣けるんですよね。
ブラッドレイ、キンブリー、そしてプライド(セリム)が退場。
それぞれに見せ場を用意した心くばりが、本当に嬉しかった。
やっつけで登場人物を殺しまくり、感動をむりやりに演出しようとする作品が多い昨今、実にみごとな作劇でした。
原作派の方からは、駆け足かな?という意見もあったようですが。
そして確かに、細部まで見渡すためには2度見直す必要があったほどの情報量でしたが。
ぎゅっと目の詰まった緊密な構成に、むしろ蒙を開かれた気がしました。
マンガには、そしてアニメには、まだまだこれだけの可能性があったんだ…。
ブラッドレイは、大往生。
「いい人生だった…」
こんなカッコつけた台詞を言わせて、違和感がないどころか率直に感動できる作品なんて、もう文学や映画でも希少です。
ランファンの非難にも、毅然と応える姿が、またカッコよすぎ。
「あれは、私が選んだ女だ」
これも、夫婦の信頼の表れなんですね。
ブラッドレイ夫人はどう思ってるのか?ってツッコミも出そうですが、夫婦のことは傍目からは分らない、とはよく言ったものです。
男原理と女原理。これもまた、ハガレンの重要なサブテーマという気がしました。
キンブリーが、またいいんだよなあ。自らの美学に殉じるキャラって、大好きです。
好感の持てるキャラじゃなかったんですが、退場のときの見事さに惚れました。
「貴方は美しくない」
消滅のときに、こんな台詞を吐けるなんて。
さすがは、魂の暴風雨にあって、平然と自分を保っただけのことはあります。
いま少し、彼の美意識や自恃や狂気についての伏線があれば、とは思ったものの、それは些少な瑕瑾でしょうね。
セリムの本体は、頑是ない胎児だったんですね。
「親にしたがうのは当然だ」
父親に反抗するエドの主張に、まっこうから対立したプライドの生存根拠は、実はコレだったんだ。
確かに、ホムンクルスたちは、人の原罪の具現化ですからね。
でも、「プライド」の本体は、親を恋い慕う子どものそれだったなんて。
何だか、哀れでしょうがなかった…。
もしかしたら、ブラッドレイ夫人に拾われて育てられて、って一抹の救いがあるのかも?
そんな、あり得ない夢想をしてしまいました。
ああ、気持ちがいいなあ。
このまま、7月4日まで、ハガレンの「酩酊船」に心地よく揺られていたいです。
※「酩酊船」詩人ランボーの名を揺るがぬものにした、初期の傑作韻文詩です。
次回「凄絶なる反撃」
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