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2005年10月 8日 (土)

惚れ薬は誰のもの?(SS)

「あら?」静留は小首をかしげた。
「あの薬……確かにここに置いたのに。どないしたんやろ」

押収した惚れ薬で、いくつかの微妙な鞘当てが起きた後の、風華の生徒会室。
忘れ物に気づいて戻ってきた静留は、もう用済みやわ、と戸棚に置いた惚れ薬の瓶が、忽然と消えているのに気がついた。
「さっきこの部屋におったんは……ううん、まさかねえ」

同じ頃、遥は腕組みをしたままふーむとかうーむとか唸っていた。
眼の前には、小さなガラスの瓶が置かれている。
「つい出来心で持ってきてしまったけど……どうすればいいのかしら」
もちろん、例の惚れ薬だった。
あれほどインチキだと決め付けていた惚れ薬を、ついつい持ってきてしまったのは、心の迷いからだった。
静留はどうやら惚れ薬を信じているらしい。
反論する自分(遥)に、「うちは恋する乙女の味方やから」とまで言い切った。
「恋する乙女……」
認めたくない。認めたくはないが、自分もそうなのではないか。
だって、そうじゃなきゃ、この気持ちの説明がつかない。
静留に対する敵愾心だとばかり思い込んでいたのだが――。
遥は、これまで気づかなかった自分の想いを持て余し、珍しく懊悩していた。

とうとう、考えることに耐えられなくなって、遥は喚き出した。
「だいたい、この気持ちって何なのよ!ぶぶ漬けのことを考えると、食欲もないし、ため息まで出るなんて。ったく、何か悪い病気なのかしら!訳が分からないわ!……とにかく、これは正義なのよ!そう、あたくしの中の、規律と正義のなせるわざなのですわ!」

そんな遥をひそかに覗いている者がいた。
「遥ちゃん……。あれだけきっぱり否定しておきながら、そんなものに頼るなんて……」
雪之だった。嫉妬の蒼い炎をめらめら燃やしている。
「でも、正義にしてしまえばとにかく理屈は立つもんね。さすがは遥ちゃん」
ひとり、うんうん頷いている。けっきょく遥の全てが好きという、雪之の悲しさだった。
「でもどうしよう。このままじゃ、きっと遥ちゃん、あの薬を使っちゃうよ」
どうしようどうしようとしばらくぶつぶつ呟いていたが、ようやく何事かを思いついたらしい。
「そうだ。遥ちゃんが会長さん相手にアレを使おうとしたら、そのときは――」

遥は、廊下の角に身をひそめていた。生徒会室に上がってくるとき、静留は必ずこの廊下を通るのだ。
「な、なんかドキドキしますわね。子どものころ読んだマンガに、こーゆー状況ってあったっけ。男子が好きな女の子にラブレターかなんか渡すために待ち受けているのよね」
「待ち受けどころか、これじゃ悪者の待ち伏せだよ、遥ちゃん」雪之がため息をついた。
「それに、独り言のつもりかもしれないけど、声がおっきいから全部聞こえちゃってるし。……だいたい、分かりやすすぎるよ。そんな待ち伏せに引っかかる相手なんて、きっと遥ちゃん位じゃないかなあ」

生徒会室前で待ち伏せするに違いないという雪之の読みは的中した。あれこれ策をめぐらせても、結局直球勝負しかできないのが珠洲城遥なのだ。
そうこうしているうちに、静留がやってきた。遥の頬が、ぱっとくれないに染まった。しかし――。
なぜか、楯や武田、カズくんにあかね、舞衣やなつきや詩帆や、要するにお邪魔虫オールメンバーをぞろぞろ引き連れていた。
さらに、静留の周囲には、いつもの通り、取り巻きの女の子たちの姿があった。
遥の表情が、みるみる険悪になった。
「藤乃!」
遥は、飛び出しざま、さっと右手を振り上げた。その手には、惚れ薬の瓶が握られていた。
「心して、あたくしの偉大な愛をお受けなさい!!」
「いけない、遥ちゃん!」
横から、その手をはっしと叩いたのは、同じく飛び出してきた雪之だった。
薬瓶は大きく宙を舞った。
思わず天井を仰いだ遥の、ぽかんと開けた口の中へ、その中身が。

ごくり。
飲んでしまった。小さく悲鳴を上げる雪之。きょとんとしている遥。

「だ、だいじょうぶ、遥ちゃん、何ともないの?」
やはり遥ちゃんの言うとおりインチキな薬だったんだ、と安心しかけたそのとき。
もじもじしていた遥が、色っぽく体をくねらせながら、カーディガンを捲り上げた。
「体が熱い……」
するりとカーディガンを取り去った。
そのまま、ブラウスも脱ごうとする。
「ちょ――遥ちゃん、なに制服脱いでるの?」
「だ、だって、止まらないのですわ」
説明するのももどかしげに、純白のブラウスをむしり取るように脱いだ。

HiME最強といわれたでぼちんの胸が、ぶるんと飛び出した。全員の視線が釘付けになった。楯と武田は鼻から青春の情動を吹き出させた。カズくんは、あかねの手前自制していたものの、ハンケチで鼻を押さえていれば、しょせん同類であることは一目瞭然だった。
舞衣の顔に、微かな嫉妬の翳がひらめいたのを、巧海は見逃さなかった。
マイペースで微笑む静留。女王の余裕だろうか。
詩帆は、無邪気な驚きの表情だ。「あたしもいつかああなれるかなあ」という感じ。
なつきは、何だか情けない複雑な顔でみつめている。内心おそらくこう叫んでいるのだろう。
『くそ、わたしの胸はヘタレてなんかいないぞ。舞乙みてみろ』
ぽかんとしているのは命。「あれって食えるのか?」とでも言いたげだ。
心からうっとり見惚れているのは、雪之だけだった。「やっぱりすごいよ、遥ちゃん」

「ああ……。よく分りませんけど、これが愛なのですわね。こんなの、生れて初めてですわ。さあ!あたくしの愛をがっちり受け止めるのよ、藤乃!」
「あいにくどすなあ。いま、珠洲城はんに捉まるわけにはいきません」
「いつまで、そんな暢気なことを言っていられるのかしら」
遥の右手には、いつの間にか巨大な鉄球ハンマーが握られていた。
「エ、エレメント?まさか??」全員が驚愕した。
「さあ、もう逃がしませんわよ、藤乃。あたくしの愛を受け止めなさい」

1時間がたった。
学園の広大で美しい庭園は、遥の凶悪な鉄球エレメントのおかげでボコボコにされ、見る影もなかった。
それでも、破壊的な追いかけっこはいつ果てるともしれなかった。
雪之は、このありさまを息をのんでみつめていた。
「知らなかった。遥ちゃんがまじテンパって恋をしたら、こうなるのか……。勉強になるなあ」φ(..)メモメモ
「あれは何をしているのですか、深優」
アリッサだった。しんそこ不思議そうな表情だ。
しかし、でぼちんの狂態は深優の論理的なOSでは到底解析不能だった。やむなく、こう答えるしかなかった。
「お嬢さまは知らなくてよいことなのですよ(基地害と言ってしまえばそれまでですが)」

「それにしても、珠洲城はん」
でぼちん渾身の一撃をさらりとかわしておいて、静留は余裕で言い放った。
「うちのこと好きって言うといて、潰してしもたらどうにもならんのと違います?」
遥は絶句した。
「……あたくしのものにならないのなら、いっそ壊してしまいますわ!」
「相変わらず無茶なお人や」静留は思わず苦笑した。
「でも――そんな愛もあるんやねえ。そのためなら、どんな事でも許される愛が――。なんか、うち珠洲城はんが羨ましい……」
『そやろ、なつき?なつきはイケズやからなあ。うちの気持ちなんて、これっぽっちも』心の中で、そっと呟いた。
『うちかて、聖人君子やあらしまへん。つれなくされとったら、いつ、なつきのこと壊したくなるか分りませんえ。気いつけてな、なつき』
「ふふ、ほんま、かいらしいなあ、珠洲城はんは」
「そ、そう?」静留に誉められて、悪い気はしなかった。
静留の次の言葉が飛んで来るまでは。
「黙って、おとなしゅうしてれば、ですけど」
「○△×!!!!」

日舞のように優雅な身のこなしでかわし続ける静留。でぼちんは、ついにキレた。
「こら!ちょろちょろ逃げるな、ぶぶ漬けえ!」
「そうはいきまへん。あんたのことキライやないけど、うちの身も心も、なつきの物やさかい」
「ちょwww勝手に決めるな、しかも公表するな静留!」慌てるなつき。

「それに、少し待ってえな、珠洲城はん。誤解してることがありますえ」
「うるさい!神妙にお縄につくのですわ!」
まったくのドタバタ追跡劇だ。とても、恋の行方を賭けた追いかけっことは思えない。
「珠洲城はんは風情がありませんなあ。うちの清姫なら、もっと安珍さまを優雅に追ったもんどすけど」
「アンチンって何よ、なんかやらしいですわね!」逆上し切っていた。
「やむを得ませんわ。手荒なことはしたくありませんでしたけど」
「もう充分手荒だよ……。あ。ま、まさか、遥ちゃん――」

「いでよ、光黙天!!!

ずどどーん。

次の瞬間、遥のチャイルド光黙天の、周囲を圧する巨体が出現した。

「さあ、おとなしくあたくしの愛を受けるか、それともあたくしを拒んで光黙天に天誅&粛清&ジェノサイドされるか、どちらを選びますの?いわゆる究極の選択というやつですわね」
「ぜんぜん選択になってないよ、遥ちゃん……」
恋においても唯我独尊。遥はやはり遥だった。
雪之のミロワールと組めばほぼ無敵の光黙天を前にして、さすがの生徒会長も軍門に下ると思いきや。

「実力行使どすか。なら、こちらもやむを得ませんなあ。清姫!

ばばばーん。
最凶最悪のチャイルド、清姫も、巨体をくねらせて出現した。

驚愕する舞衣。
「そんな――清姫も??こっちの設定では、二つのチャイルドは共存できないはずなのに」
「こりゃいいや、リアルじゃありえない、夢の対決ってやつだね」
「奈緒……。いつの間に」
「これが見逃せますかっつーの。光黙天VS清姫、風華学園開設以来のビッグイベントじゃない」
「待った、その勝負待ったあ!」
「こ、黒曜の君?いえ黎人さん?」
「この場は僕に預からせてもらえないか。これだけのドリームマッチを、こんなしょーもない(?)惚れ薬SSで使ってしまうのはもったいないよ。いずれ、しかるべき場を用意して、実現しようじゃないか。観客動員百万人は見込めるんじゃないかな」
「観客動員……」
何とも阿呆な発想だが、考えてみれば、この対決で風華学園を完全消滅の危機にさらすのも得策ではない。
「おまかせしますわ」理事長のツルの一声で場は収まった。

執行部長の立場では理事長命令を受け入れざるを得なかったものの、収まらないのは、遥だった。
「あたくしの気持ちはどうなるんですの?」ヒステリックに喚いた。
「だいいち、これではオチにも何にもなっていませんわ」
「いーえ、オチはあるんよ、珠洲城はん。それも飛びっきりのが」
「?」
「あんた、ほんまにそれ、惚れ薬やと思うとったん?」
「え!?ほんまにって、ま、まさか……」
「珠洲城はんで人体実験できなかったさかい、副作用とか危ない思うて、さっさと捨ててしまったんよ、中身。ただ、瓶は綺麗やったから、うちが使えるかと思うて、代わりのものを入れて戸棚にしまっといたんどす」
「そ、それじゃ、あたくしの飲んだのは――。代わりのものって――」
静留は、心から可笑しそうに言った。
「ただのH2O、つまり、お水どす」

「想いは力になる、というのはホンマなんやねえ」ころころ笑う静留。
「まさか、ただのお水で、珠洲城はんがこないに乱れるなんて」
「う……」おでこに冷や汗をうかべる遥。
「何とか言ってやって、遥ちゃん」
すこし意地悪くけしかけたのは雪之だった。
何だかんだいって、遥が静留に気があるのがやはり面白くないらしい。
「うう……」ますます追いつめられた遥。行きがかり上、光黙天を使っての打ちこわし技も使えない。
「ええええい!!!」
でぼちんの八つ当たりロケット頭突きをくらって目を白黒させたのは、ギャラリーにぼけっと突っ立っていた迫水だった。
「うわ、なんで私が」
「うるさいですわ、あいにくあたくしは珠洲城遥なのよ!」
「ああ……やっぱりオチてないよ遥ちゃん」
雪之は深い吐息をもらした。そして、腕組みして虚勢を張っている遥を、心から愛しげにみつめた。

「でも、そこが遥ちゃんなんだよね。次はしっかりがんばろうね。舞乙とかいう番組では、遥ちゃんがスーパーヒロインになれるみたいだし。ね、遥ちゃん、遥ちゃん……」

(おしまい)

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